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八十歳から起こすルネサンス

統計は驚くべきことを伝えている。八十歳以上の人がなんと一千二百五十万人だと。実に日本人は十人に一人が八十歳を超えた人々でしめられているのだ。この現実に直面するとき、私たちはどう生きるべきなのか。その問いがいまわたしたちに突きつけられている。

樋口恵子  命への敬意、人生百年社会を歩む

 
──ばりばり働いてこられて今年の5月4日で80畿ですね。
いよいよ人類未到の超高齢化社会に当事者として足をふみいれたと感じ武者震いします。大げさにいえば、人生百年社会に生きる初代高齢者です。初代としての責務を果たしたいです。高齢社会のさまざまな幻影は消え、覚悟を要する苦難の現実が見えてきました。一部には長生きを嫌う雰囲気すら生まれつつあります。しかし、今、私たちが手にした長寿の普遍化は、平和と一定の豊かさなくては絶対に実現しません。長生きが不安だったら若い世代の希望もなくなります。百年の時間差のある人々が共生し、生のコミュニケーションができるんです。
 日本は平均寿命、高齢化率、高齢化のスピードで世界一の三冠王です。世界中が日本の在り方に注目しています。だから今こそ実は、チャンス。日本の優れた高齢者介護のソフト、ハード面の技術こそ重要な輸出品目です。高齢者の社会活動の好事例を集めて、国際観光コースとして世界の高齢社会関係者を呼んだらどうですか。日本の高齢者の活躍は重要な観光資源です。
 
──2011年3月11日。あの日は何をされていたのですか。
午後2時半過ぎ、私が役員をしている団体の若手代表といっしょに子育て支援や男女共同参画について大臣と懇談する予定でした。午後2時46分に地震が発生、会合は流れ、移動の手段は奪われ、夜まで行き場が無く、日比谷の帝国ホテルに駆け込みました。2千人もの方と共に一晩、ロビーで泊めていただいたのです。毛布もパンや飲み物も出していただいて。1923年の関東大震災が発生したときに、被災者援助にも尽力した帝国ホテルの伝統に感心してしまいました。
 
──この一年、ご自身のなかで精神的な変化はありましたか。
「3・11」の後には私も落ち込みました。高齢者がたくさん亡くなり、高齢者を助けようとした若い命も奪われました。テレビ面面に映る、高齢女性、どうやら家族を失って一人避難所にいる方を見て、気軽に「人生百年」なんて言っていた私自身に疑問を覚えたのです。そんなある日、天皇、皇后両陛下の被災者お見舞いがテレビニュースで流れ、皇后さまのおことばがこう聞き取れました。
 「よく助かってくださいましたね」
心を揺さぶられました。年齢、性別を問わず、今ここにある命への全き受容と感謝。命への敬意と祈り。それは、私たちがこれからも歩みつづける基本だと思い、また、勇気が出てきたのです。


 
 
 

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