2020年の秋


 金木犀の甘い香りがしている。
 今年は俳優やら女優やらが三人も自殺していた。特に三浦春馬と竹内結子は二十年後も名前が残っていそうな活躍で、この文章がこれから何年後に読まれるかは分からないけれど、その時も思い出す人がいるだろう。仕事がなくて苦しいってことは絶対にない二人でどうして死んでしまったのか皆目見当もつかない。まあ自殺なんてそんなものだろう。本人以外が知るよしもない。
 コロナーこれからはきっともうコロナで伝わるのだろうーでも有名人が二人死んでいた。志村けんと岡江久美子。特に志村けんの死んだ時にはいわゆる世間というものが騒いだ。まだコロナが、危険と言われていても、何を奪っていくのかよく分かっていない頃のことだった。コロナが人の命を奪っても、その影響がごく限られていて、広く周知されていなかった。そんな時志村けんが死んで、コロナは大切な人に死をもたらす病なのだと教えた。そして、どんな人でもコロナで命を奪われることがあるのだと我々に実感させた。
 これらのことは、何も2020年の秋に立て続けに起こったことではなかった。しかし、諸々のことが積み重なって迎えた秋だった。東京オリンピックも行われなかった。
 春から夏、当たり前のことがコロナで壊れてしまって、壊れてしまったことに少しずつ慣れてきた、そんな秋だった。
 金木犀は相変わらず、今年も甘く香っている。
 コロナは世界的に影響を与え、人々はコロナが世界をがらりと変えるだろうと言った。それはつまり破壊が起きた、というだけのことだったのだけれど、破壊は二度と元の状態へは返らない。詰まるところが変革なのだ。コロナの破壊は大きかった。
 そうか、けれど残ったものもあったのだ。
 秋に香る金木犀。

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