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運命の女神

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小説「運命の女神」完結済。 ー「聡子の話ではノストラダムスの予言通り、1999年に世界は滅亡していたらしい。」 総治と聡子。そしてそれだけでは終わらない世界。
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運命の女神 (1)

運命の女神 (1)

「運命の女神」

  あの頃のそれしかなかった世界

 生きる。とにかく課題は山積みである。
 状況は慌ただしいというより、全てが自分の処理能力を上回っている、という方が正しく、「大丈夫か?」と問われれば、何も考えずに「大丈夫」と答えてしまいそうな程余裕がない。「だめ」と答えて、「何が?」と問われても、きっと答えることなどできない。だから「大丈夫」。
 身体はまるで何かに密閉されているようだ。どこ

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運命の女神 (2)

運命の女神 (2)

   二、

 誰かにこの気持ちを伝えられれば、楽になるはずなのだ。
 それは計算と言うよりも、そうであってほしいという希望で、頭の中では何度も誰とはなしに自分を表現する瞬間を思い描いている。頭の中の自分はとても雄弁で、感動されたり受け入れられる。何らかの変化が起こる。そういう欲求。
 だいたいは叶えられない。
 「本当のこと」は話そうとしても言葉にはならず、また、誰もそんなことを聞きたいとは思っ

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運命の女神 (3)

運命の女神 (3)

   五、

 難しいことは、もう手の出しようがないよね。分かるとか分からないのレベルじゃなくて気づきすらない。魔法みたい。あーいいなって思う遠い世界。今写真を撮りましたけど、このスマートフォンの仕組み説明できます?できません。使うことはできるけど。簡単なことは驚くほど簡単で、はい、今撮った写真を全世界に晒しました。指一本で。簡単なことと難しいことの間には大きな溝があって、簡単なことから難しいこと

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運命の女神 (4)

運命の女神 (4)

   七、

 今日は、ようやく野菜炒め以外のものを作ることができた。帰りにスーパーに寄って安くなっていた食材を買い、夕飯の支度をした。総治はどこかほっとした気持ちで食卓に料理を並べた。
 「ポテトサラダにハンバーグ」
 「なんかお子様ランチみたいなメニューになっちゃったな」
 「ううん、どっちもおいしい」
 ぱくぱくと料理を口にする聡子の姿を見ていると、不思議と総治の心は癒された。
 買ってきた

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運命の女神 (5)

運命の女神 (5)

   スーパーマーケット

 日本のスーパーマーケットは一九五二年だか、五三年だかにできたそうだ(Wikipedia調べ)けれど、正直これだけ生活に根付いているといつできたかは買う側にはもうどうでもよくて、生活圏の一部として、ただそこにきちんと問題なく存在していてくれることが重要だ。そして出来る限り利用者にとって、安さも含め便利であること、これに尽きる。良い商品が安く売られていること。良いものを得

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運命の女神 (6)

運命の女神 (6)

   八、

 スーパーマーケットの思い出といえば、六つ上の兄が値下げシールの貼ってある惣菜ばっかり買ってくるってことだった。あとはパンとかも値下げ品。米も値下げ品。よくポソポソの寿司を食べた。兄の始末に負えないところは、値下げ品ばっかり買ってくるくせに賞味期限に全く気を使わないことだった。遅い時間に半額の惣菜を買ってきて、製品表示の賞味期限はその日の内なのに、次の日の夕食に食わされることがしょっ

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運命の女神 (7)

運命の女神 (7)

   九、

 「どうして怒らせるんだ」
 と美杏の義理の父拓也はよく言う。
 「どうして拓也のこと怒らせるの」
 と美杏の母の桃香がよく言う。
 二人とも驚くほど大きな声で言うので、美杏は首を竦めてしまう。そんなに私がいけないの。それでまた拓也を怒らせ、桃香を怒らせる。 
 怒らせるのは悪いこと。怒らせたのは私。
 悪いことをしたから美杏が悪い。
 美杏が悪いから、また怒られる。
 ごめんなさい

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運命の女神 (8)

運命の女神 (8)

   十一、

 何が病気で、何が病気でないのか、分からなかった。
 総治は聡子の病気についてインターネットで症例を調べたり、本を読んだりしてみたが、何が悪いのかよく分からなかった。どんな症状が出る病気なのかも、どんな薬が必要なのかも、どんな風に接すればいいのかも書いてあった。確かにこれは聡子にも当てはまる、と思うところがあった。けれど、聡子の滅亡の話や夢の話が病気のせいなのかどうか、何を病気とし

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運命の女神 (9)

運命の女神 (9)

   十二、

 ああ、なんでだろう。私、ずっとこのままでいいって思ってたんだな。ずっとこの先に進みたいって思ってたけど。何度もその先を妄想したけど。どうして先へ進んでくれないんだろうって思ってたけど。今ようやく訪れたこの変化が怖くてたまらない。変わらないことを受け入れていたのは諦めじゃなかったんだな。私がこの状態を受け入れていたからなんだな。
 私には不釣り合いなくらいだった。この世界の星の数い

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運命の女神 (10)

運命の女神 (10)

   十四、

 鈴木優は総合病院の産婦人科で自分の順番を待っていた。ずっと来ることを躊躇っていたが来てみればそこは何一つ恐ろしい場所ではない。意にそぐわない一晩からもうひと月半が経過していた。「佐々木さん」とは連絡が取れなくなっていた。次の日に緊急避妊薬を処方してもらうべきだったが、誰にも「佐々木さん」との関係を説明することができず、産婦人科に来ることがひどく恐ろしく感じて、こうして生理がこなく

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