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心が楽しくなるようなパッケージは生き残ってほしいし、生き残っていくだろうな by 小玉さん

こんにちは。クルツジャパンのタナカです。
2022年5月13日〜29日、パッケージの未来と可能性を探るエキシビション、Packaging-Inclusion vol.1「つながる」を開催しました。その参加デザイナー・関係者への取材を通じて、「パッケージの未来を探る」インタビュー企画。初回にご登場いただくのは、アートディレクター / デザイナーの小玉 文さんです。
デザイン事務所BULLET Inc.の代表として、手に取る人の心を惹きつけるパッケージデザインを多数手掛ける小玉さん。今回制作した「link-can(リンカン)」や共創の過程、箔の魅力やパッケージの未来について、当社代表の中根と小玉さんのオフィスへ伺いお話を訊きました。

楽しくなるパッケージで、日常と非日常をつなぐ

取材は小玉さんの事務所、BULLET Inc. にて

小玉 文(コダマ アヤ)1983年大阪生まれ。
東京造形大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻領域卒業。
株式会社粟辻デザインに7年在籍後、2013年に株式会社BULLETを設立。
東京造形大学 助教。https://bullet-inc.jp/

ーまずは、Packaging Inclusion で制作した「link-can」について聞かせていただけますか?

「link-can」は、「link=つながる」という言葉と「can=缶」を合体してネーミングしました。Packaging Inclusion Vol.1のテーマ「つながる」を踏まえ、日常と非日常を自然につなげられるようなパッケージを考案しました。

緊急非常食の缶詰を日常生活でもステキに置いておきたくなるような存在に

現在流通している非常食のパッケージの大半は、「誰にとっても分かりやすいデザインであること」を第一に重視してつくられています。様々な人にとって必要な非常食のパッケージを、ユニバーサルな視点からデザインするのは当然のことです。しかし今回の私のデザインは、異なる切り口の考え方で非常食のパッケージを考案できないか?という実験的提案でした。気持ちが荒んでしまう災害時にこそ、「このパッケージ、可愛い」と、心にゆとりが生まれるようなデザインが必要ではないか?「缶詰しか食べるものがない」ではなく、「缶詰で食べるゴハンもなかなか良いよね」と思えるようなものにならないか?
非常食は普通、必要に迫られて備蓄するものですが、普通の感覚で「可愛いな、欲しいな」と思って買うものが非常時にも役立つものであれば、もっと自然に非常食の備蓄を促すことにつながらないか?そんな切り口を提示したいと考えました。

缶をストックするための専用のケースも制作しました。小さなスツールやテーブルとしても使うことができます。普段からお部屋に置いて使ってもいいですし、災害時に段ボールなどを上に置いて大きめのテーブルのように使うこともできるかもしれません。「パッケージ」を複数ストックすることで「家具」にもなる。このふたつの共通項は「常に部屋に置いてある」ということです。このことも、Vol.1のテーマ「つながる」への回答のひとつでした。

ー 缶自体をコレクションするような使い方もできますよね。

そうですね。また、食べ終わった後の缶からラベルを剥がして、ステッカーのように使ったりコレクションしてくれると良いな……とも考えています。
実際に商品化する際には、剥がしやすい弱粘着性のラベルにすべきですね。ラベルを剥がした後の缶は、印刷の無い無地の状態になりますので、リサイクルもしやすい。かわいさと利便性を兼ね備えたパッケージです。

一見、デザインが缶に直接印刷されているように見えますが、実は側面全体にラベルが貼られています。シルバーの部分は缶の色ではなく、KURZのシルバーのコールドフォイルを透明PETラベルに転写しています。

技術とアイデアがつながり、外へ自由に広がっていく

ー Packaging Inclusionは、私たちとしても初めての試みでした。ロゴやメインビジュアルを手掛けてくださった小玉さんは、どんな思いで参加していましたか?

クライアントワークとは違い、「こんなパッケージがある未来はどうか」を考えて提案することは、普段とは違う視点からデザインを考える非常にありがたい機会でした。
今回デザイン面での実験的な提案として、パッケージの商品名の文字をあえてかなり小さくしています。量販店の店頭でアピールすることを想定する場合、商品名は大きくレイアウトすることが必要ですが、今回の缶はオンラインでのリピート購入を想定したもの。商品名を強くアピールするものではなく、日常に常に置いてあって心地よいと思われる存在感を目指しました。

ー 共創の過程についてはいかがですか?

「Packaging Inclusion」という言葉が提示された瞬間に、エキシビションに関わる人たちの中で、ひとつの共通認識が生まれたと思います。
この言葉は森先生(※)がご提案されたもので、「包含する」という意味の「inclusion」とモノを「包む」という意味の「パッケージ」を組み合わせた言葉。現在の世の中やこれからの先の未来までも包み込んで考える展示になってほしいという思いが込められています。
ロゴデザインは、このコンセプトを表現するために、「PACKAGING」と「INCLUSION」2つの単語が一部で「つながって」おり、また全体を「包み込んで」いる形として制作しました。

メインビジュアルのグラフィックは、色違いの2種類のタイポフラフィーが重なって構成されています。ひとつは「PACKAGING INCLUSION」の文字。もうひとつは平仮名の「つながる」の文字です。文字同士が他の文字とつながったり、関係し合いながら、実験的に形を変えていく途中のように見えるものを目指しました。今回のプロジェクトに参加した4人のデザイナーとKURZさん・フジシールさん、様々な技術や考えが合わさることで、新しい共創が行われるイメージを表現しています。
※森 一彦(京都先端科学大学教授)。Packaging Inclusion のアドバイザー。

ー 招待状/フライヤーは、途中で無くなる種類が出るほど好評でした。

そうでしたか!こちらのグラフィックには、それぞれ2種類ずつの箔が使われており、箔の色違いで5パターンあります。受け取った方からの嬉しい声は私のほうにもたくさん届いており、特に透明の色箔(LUMAFIN®︎)にご興味を持たれる方が多かったです。

箔押し加工を用いると、紙や印刷だけでは得られない質感や華やかさが生まれます。

ー 小玉さんにとって、箔の魅力は?

色々ありますが、やはり一番は「金属感」ですね。紙の上にメタリックの質感を表現し、きらきらと輝かせることができるのは、箔押しの一番の魅力だと思います。
日々パッケージデザインの仕事の中で紙や印刷加工に触れる機会は多いですが、箔押しは中でも比較的高価な加工ですので、コスト的に「箔押しを用いてOK」というお仕事は「よしっ!嬉しいなあ!」と思います(笑)

心が楽しくなるパッケージは、絶対に生き残る

ーパッケージデザインを取り巻く現状をどのように見ていますか?

二極化していくのかなと予想しています。一方は「無駄に過剰包装にする必要は無い」商品のパッケージ。もう一方は「人にお渡しするものだからいいものを贈りたい」「自分へのご褒美として買いたい」、心や生活を豊かにするためのパッケージ。大きくこの二つに分かれていくように思えます。
前者で顕著なのは最近のラベルレス飲料ですね。

ー 二極化していく時代の、パッケージの役割は何だと思いますか?

さきほど挙げた「後者のパッケージデザイン」は、オーダーメイドで服を作ることに似ていると思います。例えば、性格がすごくいい人なのに、着ている服や外見がイケていないからと誤解されて本当の良さが伝わらない時に、「こんな服を着た方が似合いますよ」「ちょっと背伸びしてるけど、こういう服を着るとさらに良く見えますよ」と一人一人に合わせて洋服をデザインすることと、商品に合ったパッケージをデザインすることは、とても近いと考えています。

私の個人的な感覚では、パッケージは利便性と楽しさが両立している状態が一番いいと思っています。便利なだけではなく、「こういう服を着ているから日常が楽しい」「こういうものを持っているから楽しい」といった気持ちは、人間として絶対に外せない。だからこそ、心が楽しくなるようなパッケージは生き残ってほしいし、生き残っていくだろうなと思います。

クリエイティブとビジネスが交差するからこそ、前進できる

ー 改めて振り返っていただくと、小玉さんにとって「Packaging Inclusion」はどんな場でしたか?

最初は、プロジェクトの目的自体が非常にふわっとしたところから始まった、という印象でした。デザイナー達にどのような提案が求められているのか?商品としてすぐに実現できるものが良いのか、もしくは、今は量産できない仕様だけれど将来的に実現できるものが良いのか、はたまた実現を度外視したコンセプトモデル……?
最終的にはデザイナー4人のそれぞれ異なるアウトプットが生まれ、幅広い提案の展示として着地したと感じています。

ー(中根)私たち自身はじめての経験で、本当にやってよかったと思える学びの毎日でした。単に短期的な利益を考えるのではなく、「どのような価値を生み出すか」をみなさんと一緒になって考えていく。その場においてはフラットに「ふわっとしていてわからない」「あなたたちは何がやりたいんですか?」と言っていただける関係を保ちながら前へ進む、ということを繰り返していくと、もしかしたら何か道が拓けるんじゃないかと思っているんです。来場者の方から「これはすぐに使えるの?」という質問も多くあったんですが、今の流通では難しくとも、そういう発想のプロジェクトというところからスタートすると前へ進める可能性があります。クルツジャパンでは、Automotive分野においてメーカー様向けに社内展示会をやっているんですが、Packaging Inclusionでも分科会のようにしてフジシール×クルツで、メーカー様へ出向いていくこともできるのではないかと思っているんです。

おもしろいですね!今回の展示はプロトタイプの作成や未来への提言まででしたが、ここから色々な会社さんに参加いただいて、現実化する、販売していくことも大事だと思います。
Make a Mark(※)では、来場者にシート状のラベルサンプルを配布されるという話でしたね。link-canのコールドフォイルのラベルも、サンプルとして各所へ配布してはいかがでしょうか。
※Make a Mark:Wine & Spirits ボトルデザインのプロジェクトの第二弾で、2022年9月にモナコで展示会が開催予定。小玉さんはMake a Mark IIへ日本代表として参加している。

ー (中根)それ、いいですね。やりましょう!

ー(取材のはずが2回目の企画展示に向けた作戦会議がとても盛り上がってしまいました)
最後に、「心が楽しくなるパッケージ」のために、箔にできることって何だと思いますか?

箔の技術は、セキュリティ用途などにも用いられるものであると同時に、私の仕事に近いところではパッケージの装飾性を高める場面で必要不可欠なものだと考えています。

「へうげもの」という漫画をご存知ですか?千利休と彼を取り巻く武将たちひとりひとりの持つ美学がそれぞれ違っていることが面白く、私自身は自分のデザインの考え方を整理するときによく思い出すんです。
今お話ししたいのは、明智光秀が織田信長暗殺の疑いで家臣たちと一緒に山の中へ逃げるシーンです。いつ見つかってもおかしくない切羽詰まった状況の中での最後の晩餐。食べるものも既に無く、光秀は身につけていた縄を切って、それで味噌汁を作るんですね。家臣たちが食べようとしたとき「ちょっと待ちなさい」と言って、その辺に生えていた桔梗の花を味噌汁の中に一輪浮かべて、改めて「どうぞ食べなさい」と促すんです。家臣は「甘うござる…!花の蜜が混ざったからではない……心が甘う感ずるのです…!」と泣いて喜ぶというくだりです。

私にとっての箔というのは、まさにこの「桔梗の花」のような存在かと。
必ずしも必要ではないけれど、それがあることによって、気持ちが豊かになる。心が動く。
箔という素材は「手にとって感じるデザイン」を志す自分にとって、必要不可欠な存在です。

ー 小玉さん、ありがとうございました。

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