【ショート・ショート】商売上がったり

 葬儀屋の社長と社員が、まだ若い女性の仏さんを前にして、おごそかに手を合わせた。
「じゃあ、始めようか」
 社員は準備に取りかかった。社長が、つぶやく。
「かわいそうに、未だ若くて美人なのになあ」
「そうでもないみたいですよ。それに顔にかなりメスが入っているって」
 社長は、仏さんの身体をアルコールで清めながら、
「本当か。でもプロポーションもいいし。もったいないよな」
「それだって、シリコンのお陰だそうです」
 社員は慣れたもので、不謹慎な社長の言葉にも淡々とした口調で応じながら、機械的に手を動かしている。
「顔色だって、化粧がいらないくらいだ」
「合成着色料の影響だろうって、医者が言ってました」
「合成着色料?」
「ええ、食品なんかに入っている、あれ。仏さんは、美容に金をつかいすぎて、インスタント食品やレトルト食品ばかり、毎日食べていたそうですから」
「そこまでしなくちゃ、いけないものなのかねぇ」
「名前は忘れたけど、何とか依存症だか恐怖症だかいう一種の病気だそうです」
「ふーん。でも肌の張りだって、こんなに……」
「それは、増粘剤の作用じゃないかって」
 社長は、だんだん気が滅入ってきた。
「もういいよ。それじゃ、防腐処理を始めようか」
 動こうとしない社員に、
「まさか、それもいらないって言うんじゃないだろうな」
「はい。酸化防止剤も十分過ぎるほどに……」

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