僕らはどこへ向かってる?
僕らはどこから逃げている?

さあみなさん 駅に向かいましょう
優しく微笑む先生が
目印の旗を高く振る

おさない かけない しゃべらない
決められた道を言われたままに
みんな同じく避難しないと
このままで居たら だめですよ

キラキラ輝く駅を目指して
後ろから急かされるまま
周りの人に流されるまま
黒々とした行列が
生き物のように蠢いた

息も出来ない人ごみの中で
透き通ったふたつの翼が
音を立てながら軋んでる

真紅の滴が一粒
疲れた背中に流れ落ちる
ひとつの願いを消す度に
か細い骨が 折れていく

僕らは何を手に入れる?
僕らは何を置いてきた?

さあみなさん 電車に乗りましょう
両手をラッパの形にかえて
大きく叫ぶ先生の声

おさない かけない しゃべらない
避難経路を言われるがままに
周りに迷惑かけないで
このままで居たら だめですよ

重たい空気で淀む電車に
配られた切符を手渡して
言われた通り乗り込んで
どろどろとした湿気が
死骸のように降り積もる

動くことすら出来ない中で
ひどく汚れた翼と共に
無理矢理体を捻じ込んで

黄色く濁った膿が一筋
項垂れた首に伝う
ひとつの想いが死ぬ度に
萎びた羽根が 枯れていく

二度と開くことのない扉
死を待つだけの電車内
虚ろな目をした子どもたち
羽根を腐らせ立ち尽くす

僕らはどこへ向かってる?
僕らは何を手に入れる?

僕らは 残された時間を
こんなモノクロの世界で
痛みしかない翼を抱いて
ひたすら耐えて過ごすのか―――

強く脈打つ 確かな鼓動
焼けつくような痛みと共に
翼に力が蘇る

息も出来ない 何も見えない
真っ暗な中で ひとりきり

僕はどこから逃げてきた?
僕は何を置いてきた?

透明に濡れる 血みどろの肩
闇を切り裂く命の悲鳴
背中を貫くふたつの翼は
鮮やかな空を 翔ぶために

僕は 手に入れた時間を
こんなひとりきりの世界で
夢見るばかりの翼を背負い
痛みに悶えて歩いてく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?