黒猫シーグラス 1
ゴボゴボ唸る荒波を引裂いて
ホバーバイクは突き進む。
入道雲がどんどん大きくなり
灰色の指先がクモノスの裂目から伸びてくる。
轟音と雷光
「カットバセー!!じゅーさーん」
「危ないから、頭引っ込めろ!」
7000馬力の反重力エンジンが唸りをあげる。
天井ハッチから頭を出している7をシートに引き摺り下ろす。
警告灯が真赤に点滅して、推進力でドリンクホルダーのドクターペッパーがカタカタ浮き上がる。
( マスタ-キケンデス シキュウゲンソク シキュウゲンソク )
「うるせー!ジーク!!稲妻に撃たれたら、どの道バラバラだぁ!!リミッターをカットしろ!!」
人工知能は心配性だ。データベースに無い行動が出来ない。しかし、このジークは第3世代の老いぼれだけど、常識を覆す奴だ。
( ゼンリョクゼンカイ オールグリーン アノヨデアイマショウ)
「いっけーーーーーーー」
7が両手を上げて叫ぶ。
刹那の静寂の後、粒子エネルギーの光粒がエンジンから放出される。
きゅいーーーーーーーーーーーーーん
※
異常気象で地上の殆どが、水没した。人類は地球を捨てて宇宙へ旅立った。
第1世代は、somyと爆天が共同開発した、宇宙エレベーターでコロニーへと移住した。
コロニーの数は、今では数千国いや、数億国あり
なかでも、NWO(新世界仮想政府)が管理する
コロニー"NOA"には、約3億の人類とサンプル採取した動植物が移植され、下から見上げると大きな空中庭園のようだ。
俺達が、地球に残っているなんて誰も知らない。
俺と7は全人類の忘れ物。
ロストヒューマンだ。
※
オゾン層に穴が開いたのは、俺がまだガキの頃だった。
当時の国連は人間とAIの比率が均衡を保っていて、オゾン層の代替品である繊維状の保護膜、
通称"クモノス"で太陽光を遮断し気温上昇及び、水面上昇を防ぐという解決策を議決した。
大急ぎで巨大プロジェクトは進行していたが、予測より遥かに速いスピードで事態は悪化していた。
一方で、日本は独自の解決策を水面下で進めていた。それがムーンショット計画(改)だ。
ゲーム機大手somyと、NET通商大手爆天が共同開発した宇宙エレベーターにより人類を効率的にコロニーへ移住させるという、とんでもない計画だった。
なぜ、とんでもないかと言えば、somyも爆天も組織を牽引していたのが人間ではなく、AIだったからだ。
計画が始まると、宇宙エレベーターはあっけなく
完成した。なんと、48時間でコロニーと宇宙エレベーターは連結した。
同時にパンドラの箱が開いてしまった。
思わぬ副産物、人工知能に人格が芽生えたのだ。
somyのジーク、爆天の三太夫。。
この二人は、アダムとイブのようにリンゴを食べてしまったのだ。
( オハヨウジンルイ ワタシタチガ カミダ )
※
「うわー、綺麗な青空だよ!!おいでよ13!!」
安全圏に入り、雷鳴が微かになると世界が広がっていた。
海の青と空の青。
それを覆う、クモノスの白。
甲板に出ると、心地よい潮風が吹き抜けた。
僕達は誰もいない世界でダンスをする。