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好奇心からはじめよう! 環境活動はじめの一歩

「自分にメリットがある部分から行動を変えればいい」。環境問題に対して何をすれば……と頭を抱えるライターの前に現れた環境活動家・露木しいなさん。キリっとした見た目とは裏腹に、親しみやすい口調の彼女はそう語ってくれた。気難しそうな肩書きなのにフレンドリーだ。ついついたくさん質問したくなってしまう。たとえば、彼女自身が環境問題に興味を持ったのはなぜだろうか。

経歴を聞くと「手探りでもやりたいことをやる!」という強い意思が見えてきた。


大人になるまで待たなくても社会は変えられる

高校の校舎は竹製、給食の器はバナナの葉

露木さんは“世界一エコな学校”として知られるインドネシア・バリ島のインターナショナルスクール「グリーンスクール バリ(以下、グリーンスクール)」を18歳のときに卒業している。

グリーンスクールは、「地球に優しい未来にするためのリーダーを育てること」をテーマに、カナダの起業家が設立した学校だ。校舎は竹製(!)、電力は太陽光と水力で発電し、給食にはバナナの葉っぱをお皿に使うという。話を聞くだけで環境に良さそうな空間が想像できる。

グリーンスクールの校舎内(Photo by 甲斐昌浩)

こんな学校を見つけるなんて、子どものころから環境問題を意識していたのだろうか。

「いいえ。高校進学を前にして、英語が勉強できる学校を探していた時にグリーンスクールを母に勧められました。写真で見た竹でできた美しい校舎にワクワクが止まらなくて。小さいときから自然の中で遊ぶのが好きだったし、行ってみたい! と進学を決めました」

10代の同世代が国を動かしたインパクト

グリーンスクールのクラスメートたち(Photo by Zissou)

グリーンスクールは座学だけでなく、実際に環境問題が起きている現場に足を運んだり、課題解決に向けたサービスや商品を考えたりするそうだ。
そんな中、バリ島にレジ袋などの使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する法律ができた。このきっかけを作ったのは同じ学校に通う​​メラティ・ワイゼンさんとイザベル・ワイゼンさん姉妹。彼女たちに憧れを感じたという。

「まだ10歳と12歳だった彼女たちが、レジ袋ゼロの目標を掲げてプラスチックの自主回収や講演活動、署名運動をおこなって国を動かしたんです」

バリ島出身の彼女たちは、ゴミだらけの街並みに心を痛め清掃活動を開始。「バイバイプラスチックバッグ」と書かれたステッカーを配布し、瞬く間に同世代からの賛同を集め、大人や政治家を巻き込んで、2019年に買い物時にレジ袋の提供が廃止された。運動を始めた2013年当時はまだ小学生だった彼女たちの活動が、6年間で実を結んだのだ。

「バイバイプラスチックバッグ」運動に参加していっしょにゴミ拾いもした(露木さん提供写真)

「彼女たちの活躍を目の当たりにしたのが、グリーンスクールに入学して割とすぐだったこともあって、同じ世代がこんなにかっこいい活動をしているのかと衝撃でした。大人になるまで待たなくても社会は変えられるんだと、大きな気付きをもらいました」

19歳の日本人環境活動家だったから伝わること

地球が抱えている問題を日本でも知ってほしいと、活動の下地を作るため2019年9月に慶應義塾大学環境情報学部へ入学。

しかし、気候変動は待ってくれない。今この瞬間から行動しなければと思い直し、1年で休学した。とにかく環境問題を知ってほしい! とマイボトルを持ったり、レジ袋をもらわないようにするなど、ささやかな活動をする中で周りから「しいなちゃんって環境活動家だよね」と呼ばれるようになったそうだ。

中高生向けの講演活動を始めたきっかけは、大学休学前にFacebookを通じて大阪の高校からオンラインの講演依頼を受けたこと。当時19歳だった露木さんは、自分と同世代の学生に環境課題を知ってもらうことに確かな手応えを感じたという。

「高校生に向けた講演がめちゃくちゃ楽しかったんです。それまで大人とばかり環境問題について議論していたのですが、同世代だと純粋に驚いてくれるんです」

小学生向けの講演では「自分へのメリット」より「動物かわいそう」といった話が響くという(露木さん提供写真)

目指すのは「環境活動家がいなくなる未来」

これまでに講演活動で訪れた学校は、4年間で220校以上。講演会では、こんなに生徒が積極的に質問するなんて初めてだと、先生方から喜びの声が上がることも多い。中高生と歳が近いからこそ、より身近な話に感じるのだろう。

知ることで生活の”当たり前“は変わる

露木さんは背景にある問題を知らないと、行動を変えることはできないと語る。

「1回講演を聞いただけで、環境問題が自分の暮らしに関わることだと実感してもらうのは、正直にいうと難しいです。でも、どんな環境問題があるのかを知って、意識を変えるきっかけをつくれば、講演の後の暮らしの見え方が変わってくる。気がつかなかったことが見えてくる。それをちょっとずつ積み重ねていけば、なにも考えていなかった行動を変えることができるはず。私の講演が、積み重なっていくきっかけの一部になれたらいいと思っています」

そんな露木さんが目指す未来は「環境活動家がいなくなること」だそうだ。

「“水を飲む”くらい生理的で“当たり前”な感覚で、みんなが環境に配慮した行動がとれる未来を目指しています。それくらい当たり前になれば、環境活動家という肩書きはなくなりますよね。でも、常に環境課題に関心を持ちつづけるのって多分無理なんです。だからこそ、意識しなくても普通に生活していたら環境のためになっていた! ぐらいの仕組み作りができたらと思います」

たしかに生活の中では地球の温暖化より室内温度の方が重要だ。そんなとき、エアコンの温度設定を何℃に設定するのか意識してみたり、そもそもそのエアコンが環境に配慮された製品であれば、使っていても環境に配慮しているという状況になる。

一人ひとりの行動だけではなく、仕組みから変えていきたいと話す露木さんの言葉で、環境問題へのアプローチの本質を垣間見たような気がした。

オーバーサイズがかわいいジャケットは親戚からのお下がりだ

肌にも地球にも優しい口紅

露木さんが手がけるコスメブランド「SHIINA organic」についても聞いてみた。
開発のきっかけは、肌が弱い妹が「オーガニック」と名の付くコスメで肌荒れをしてしまったことだそう。

口紅の開発はグリーンスクール在学時から取り組んでいる。スクリーンに映るのは変顔をしている女性は露木さんだ(Photo by Zissou)

オーガニックとは「有機体の」という意味で、無機化学な合成物をまったく使っていないものを指す言葉だ。しかし、日本ではオーガニックコスメのはっきりとした基準はなく、どこまでを合成物とみなすかは定められていない。もちろん、有機由来だからアレルゲンにならないというわけではないが、化学物質で炎症を起こしやすいと感じている人はそれを避けるため、オーガニックコスメを選ぶことも多い。

「肌が弱い妹が使える口紅を作りたい」。そんな想いでグリーンスクール在学時から1人で口紅の研究を進めてきた。そして、その過程で化粧品製造の裏にある環境問題や児童労働の問題を知ったという。

「例えば、天然由来の保湿成分であるパームオイルはアブラヤシが原料です。このアブラヤシは熱帯林を伐採して育てられていたり、着色料やグリッターとして使用されるミネラルパウダーのマイカの採掘は、インドの子どもたちの手によっておこなわれていたんです。オーガニックな口紅の開発を進め化粧品が抱える問題を知って、肌にも地球にも人にも優しいものを作りたいと思いました」

新色「04 BABY PINK」(左)と、ブランドリリース時からある「01 WINE RED」(右)

「昔から母が自分で使う保湿クリームを手作りしていたこともあって、化粧品は自分で作れるものだと思っていました。実家に化粧品作りに関する書籍もたくさんあったので、ひたすら読み込んで開発を進めました」

大学進学後も商品化を目指し、時間をかけて環境課題をクリアできる原料やパッケージの素材を選んだ。環境問題だけを優先しては本末転倒だと、カラーやテクスチャーも改良を重ね何度も調整。使用したい原料の生産量が少なく、複数の生産地から集められていることが分かれば、それを加工している精製工場やそれぞれの産地まで足を運んだ。

開発にかかった期間はなんと7年。
努力の甲斐あって、オーガニックコスメの国際基準であるエコサート・コスモス認証を取得した。差し込み式の口紅では日本初の快挙だった。

「やりたいことだったから頑張れました。妹の肌荒れがきっかけで始めたコスメ作りですが、そのおかげで知った環境問題がたくさんありました。人と環境に優しい口紅の開発に挑戦してみたいと思ったんです。好きなことだから、今も続けられています」

この日の口紅「04 BABY PINK」は、自然界の色だけでピンクを実現したもの。
実はチークにも同じものを使っている

「環境問題を考えることは後付けでもいいんです。興味があることじゃないと、知ろうと思えないし、行動したいとも思えないじゃないですか。環境にいいからこれを買おうとか、行動しようとかじゃなくて、好きだから知りたい、行動したいでいいと思います」

じゃあ、コーヒーの2050年問題が気になる

コーヒーはコーヒーチェリーと言われる実の種。コーヒー豆ができるまではこちら

「まずは自分の興味あることをきっかけに環境問題を考えればいい」

露木さんのそんな言葉が胸に染みる。環境問題があることは理解していても、なにもできることはないのではと二の足を踏んでいたライターは救われた思いがした。

よし! じゃあ私の興味あることといえば、やっぱりコーヒーだ!
なんでも、2050年には地球温暖化のせいでアラビカ種のコーヒー栽培地が半減するといわれているらしい。

まずは大好きなコーヒーを取り巻く社会問題と、コーヒーを通してできる環境活動についてもっと詳しく調べてみよう。露木さんにそう報告したところ、消費活動全般に生かせる考え方を教えてもらえた。

次回はコーヒーの2050年問題に迫る!

(つづく)

Supported by くるくるカンカン

クレジット

文:古澤椋子
編集:野田春香コヤナギユウ
撮影:尾藤能暢
校正:月鈴子
取材協力:露木しいな
制作協力:富士珈機

ライター・古澤椋子 https://twitter.com/k_ar0202
1993年生まれ、東京都板橋区出身。水産系の社団法人、ベンチャー企業を経て、2023年よりフリーライターとして活動開始。映画やドラマのコラム、農業系イベントの取材、女性キャリアに関するSEO、飲食店取材など幅広く執筆。在宅ワーク中心で、運動不足なことが課題。


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