〈エッセイ〉それいくらなんですか? 1,000どんぐりです。
わたしたち夫婦は結婚して丸1年と3カ月を迎える。
出会って4カ月で入籍したスピード婚。
神戸生まれ神戸育ち、シティー派のんびりインドアエッセイストの36歳妻と
奄美・喜界島生まれ全国育ち、スポーツ大好きアクティブカメラマンの45歳夫の
趣味が真逆のバランスが悪い夫婦だ。
共通点といえば2人ともAB型で蟹座なところと
お酒を飲むペースと量が同じなところ。
日々些細なことでブレイキングダウンする喧嘩系カップルなのだが
大体の仲直りは週末の「キャンプ」が恒例となっている。
出会ったころのわたしは
街遊びが好きで都内のホテルへ出向き、スパやエステをしたり
雰囲気の良いご飯屋さんでワインなんぞを呑んでゆっくり過ごすのが好きだった。
動くのも嫌い、休みの日は出来れば何もしたくない。
虫も大嫌いなので、アウトドア派の友人たちからは
「あなたは絶対来ないでしょ」と烙印を押されていたので
外遊びなるものに誘われることもなければ
もちろん自ら「行きたい!」と手を挙げることもなかった。
ところが、ひょんなきっかけで出会った夫は
カメラマンという職業柄、地方へのロケも多くほとんどが車移動。
後部座席にはカメラをはじめとした機材が常時載せられているが
その半分以上がキャンプギアだった。
「せっかく遠方に行くのにトンボ帰りではもったいない。
最初は車中泊から始めたが徐々にギアを集め始め
ソロキャンプを5~6年前からやっていた」んだとか。
出会ったころに聞いたそんな話を、へーふーんと軽く聞いていたが
結婚を機に試しに行ってみるか! と重い腰を上げ
出かけた日から今日までで、実にキャンプ通算15回。
月に1回は必ずキャンプ場へと車で走り回る日々。
あっという間にわたしもいっぱしのキャンパーの仲間入りを果たした。
(今日に至るまでのわたしの過去日記はこちらにて ※過去キャンプ日記もアルヨ)
今回も例に漏れず、
月~金曜日までしっかりと喧嘩をしていたわたしたちだったのだが
この土日のキャンプは絶対に外したくなかった。
というのも今回わたしがセレクトしたキャンプ場、
実に不思議なのである。
↓
【the country】
2023年4月にオープンした、まだまだ新しいキャンプ地。
公式HPの冒頭から
「誰も知らない、不思議な村の物語。」の文字。
この挨拶書きの時点で、変!!
あまりにもファンタジー。
他のキャンプ場のHPと異なるのは明らか。異彩を放ちすぎてる。
キャンプエリアの名前も個性的で
「名もない村」「グリーンヘブン」「旅人の場」など。
大の大人がこの夢々しいファンタジックな世界へ全乗っかりするのは
かなり面白いのではないかと速攻で予約したのだった。
そんなワクワクなわたしの気持ちをキチンとへし折ってくれるのが
夫という存在。
出発の朝。
それぞれが必要なものをバタバタと準備するのが我が家の恒例だが……
着替えるでもなく、車を整理するでもなく、そもそも姿が見えない。
なんだか嫌な予感がして、家の中を探してみると、なんとベランダで洗濯物を干し始めている。
「カゴに溜まってたからこれだけ洗っておこうと思って!」
今? 1泊2日で家を空けるのに?? なぜ???
ちゃうねん、今やってほしいこと、それちゃうねん。
この人は良かれと思って気を回し、逆におかしなことをするタイプである。
と、道中もしっかり喧嘩しながら車を走らせ茨城県鹿嶋市へ。
しかし、お目当てのキャンプ場がカーナビでヒットしない。
なんと、まだオープン間もなくすぎて、Googleマップでしか表示されないんだとか。
だからこそ、まだ名もない場所【 the country 】。
いや~徹底されている(というかGoogleマップすごっ)。
我々は事前にYouTubeで場所や雰囲気を調べていたのでスムーズに到着したものの
キャンプ地は住宅街を抜けた、すぐ脇に突如として現れる。
運転に慣れていない人だと絶対に見落とす。
#場所まで変
到着後、さっそくキャンプエリアへ移動。
管理人さんこと”村長”の計らいで
「今日は空いているので好きなところでいいよ」とのこと。
……この人があのファンタジーホームページの主か、と意外に思った。
他のお客さんたちとも気さくにお話をする姿がとても感じ良く
無邪気な笑顔で親しみやすい空気を漂わせていてお喋りも上手。
初めましてなのになぜか身近に感じる人だった。
もっと現実とはかけ離れたホビット感を想像していたのだが、
実際はトム・ソーヤそのものだった。
うん、何となく、納得!
人は見かけによらないというが、ホームページにもよらないのだということが今回分かった。
さてどこにテントを張ろうか、散策開始。
木々がもりもりと茂り、エリア内に木漏れ日が差し込む。
ただボーっと歩いているだけなのに心がクリアになるのが分かる。深く、深呼吸。
本当に住宅街の横なの? と思うほど静かに過ごせる場所である。
エリア脇の垣根やトイレの横っちょなど、
注力していないと見落としてしまいそうな場所に細かいオブジェの数々が置かれている。
光るキノコや、妖精が見るのかTVのようなモノなど。
ワクワクと胸が躍る。
そして、エリアの真ん中にはドワーフか妖精の家らしきものが……。
聞けば、このお家は妖精用の「ウッドの家」と呼ばれ、人間は立入禁止区域だそう。
種別は異世界コテージ、 定員は2名まで(しかも異世界の住人限定!)。
設定が細かい! 細かすぎる!(嬉)
子供だけでなく大人もしっかりはしゃいでしまう。
これは楽しいな。
ここをキャンプ地とする!
村長から「この角の場所がお薦めだよ~」と教わったところにテントを設営する。
でも、あいにくこの日は強風。前日の雨で地面はぬかるみ、ペグ(杭)を打てども打てども無情にもテントは飛ばされ崩れる。
夕方に差し掛かり設営を早く済ませたいわたしに対し
夫は「やっぱり写真を撮るならこっちへ移動した方が良いのでは」などと言い出し
勝手にテントを畳みだすわで、キー! と目くじらを立てていると
村長が「あれ? また喧嘩しちゃいましたか! お邪魔してすみません! しししっ!」と笑いながら、絶妙なタイミングで現れてくれたので、こちらもその笑顔に釣られ夫婦喧嘩も無事終幕。
設営もなんとか終了し、水を汲みに行こうとすると
水場の近くに手作りの大きな木のハンマーが並べて置いてあった。
こんなとこまで演出が……かわいいなぁと眺めていたら
神出鬼没の村長がまた近くに寄ってきて「それ、買えますよ」と言う。
へ~! いくらなんですか? と聞くと
「1,000どんぐりです」
いや~~徹底されている!(嬉々)
しっかり笑ってしまった。
(「テントと焚き火と令和のトム・ソーヤと」につづく)