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メルセデスC-classセダンのデザイン#1  ~シドニーのピンキースーツマダムを思えば~

 現行C-classの登場は2014年。もうすぐフルモデルチェンジの時期です。
一見して先に出た伸びやかなS-classを濃縮させた力強い佇まいです。他のセダン群が骨格の逞しさを全面に打ち出して運動性能の高さを誇示していたり。象徴的な独立した荷室を正しく整頓させて落ち着きを表現している一方で、C-classの“湿度高め”な雰囲気は一線を画します。
先代までは高精度な工業品の集合といった雰囲気。ガラッと変わった現行型も、手法は違えど、結果的に我々が感じ取る存在感や特別感の絶対量が依然として高いのはさすがです。やっぱりC-classです。いや、少し有機的な曲線で若干軟派になってしまったとも捉えられますが、それによって独特の華やかさをはっきりさせたとも思えます。定かに捉えているのか怪しい目線(LEDヘッドランプ)に毒気を感じて怯んでしまうのは私だけでしょうか。
 話が逸れますが、昔私が少し前にオーストラリアのシドニーに住んでいたとき、バスに乗り込んできた老婦を思い出しました。真っ青な海が映える晴天の海岸沿いの高台のバス停から乗り込んだ彼女はパリッとしたクラシックなフォーマルスーツを着ていました。おそらく70代後半くらいで、パキッとした銀髪を夜会巻きで固めていました。何が不思議と思えば、漂う自信にビジネスチックな緊張や気負いを感じないことです。それは穏やかな晴天にケンカを売るようなショッキングピンクのスーツの仕業か。若しくは特殊な薬莢ベルトにも見えなくもない大振りの黄色のパールのネックレスの所為か。よくよくするとインナーはゼブラ。まばらな乗客の70%はシャツと短パン姿の車内。彼女の存在は強すぎる。超現実でありながらフェイクなのかも知れない。見るものの意識をチカチカと両極に振れさせます。
 “なんてかっこいいのだろう”。私は堪らず(英語で)聞きました『洋服すごくクールですね。お仕事ですか?』。すると彼女は『ありがとう。違うわ。買い物よパンを買うの。ただこの格好が好きなのよ』。話しかけるまで皺に紛れて落ちていた彼女の口角が、糸で引き上げたごとく高く釣り上がっていました。実は大きい口を囲う真っ赤なリップも印象的に踊っていました。
 真っ青な空とピンキーマダム。フォーマルなスーツを白黒写真で撮したらいつかの時代の品のいいおばあちゃんとして収まるでしょう。今のクラシックは当時の一般的なハレ衣装。多分教会かどこか畏まった場所へ向かったのでしょう。ー いやいや。実際は艶やかな素材のピンクです。それに現代。アクセントは薬莢ベルトとゼブラ。なんともスパイシーです。南半球に降り注ぐ強力な紫外線を増幅して打ち返すほどの輝きを放っています。向かうところも近所の美味しいパン屋。私は太陽系を巻き込んだマダムの、余裕を残した壮大なフックに打ちのめされました。つづく。

次回予告: C-class, 実はクラシック?若しくは反骨のクラウトロック?



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