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『見詰める』

深まった夜なのか、早まった朝なのか、親しくも、親しくなくもない友人と電車に乗り込んだ。そして何ともない話を点々と続け、発車を待った。 ドアが閉まると、軋む音だけが車内に響いた。すると、友人がクスクスと笑い出した。どうやら静寂にツボったらしい。友人は、 「先生の説教とかで笑っちゃう感じ。」 と言った。合わせにいこうかとも思ったが、頭の回る時間帯でもなかったので、 「あれってずっと同じ顔を見てるから面白くなってきちゃうんだよね。なんか、顔が段々分離していくっていうか、人間の顔って

    • 僕は天才

      彼は言った。 「僕は世界で一番悲劇的かもしれない。」 「と言うと?」 「僕は生まれてこのかた、苦労したことがないんだ。もちろん、多少の難しさはあった。でも、この世界全てを恨んだり、妬んだりしたことはない。所謂、人間っぽさってやつさ。」 「なるほど。」 「でも、かといって楽観人生じゃない。ジョンみたいにカリスマ性を持ち合わせているわけでもなければ、ポールみたいに特出した才能があるわけでもない。サッカーもスタメンに入れるまで、ビジュアルだって悪くもなければ圧倒的でもない。生まれだ

    『見詰める』