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『見詰める』

深まった夜なのか、早まった朝なのか、親しくも、親しくなくもない友人と電車に乗り込んだ。そして何ともない話を点々と続け、発車を待った。
ドアが閉まると、軋む音だけが車内に響いた。すると、友人がクスクスと笑い出した。どうやら静寂にツボったらしい。友人は、
「先生の説教とかで笑っちゃう感じ。」
と言った。合わせにいこうかとも思ったが、頭の回る時間帯でもなかったので、
「あれってずっと同じ顔を見てるから面白くなってきちゃうんだよね。なんか、顔が段々分離していくっていうか、人間の顔って実はめっちゃ変だなって。」
と、僕は言ってしまった。
お前の方が変だろ、と言わんばかりに友人はまたクスクスと笑い始めた。
反射的に心の中で言い返してしまった。
だって第一感想みたいな感想が第一感想として本当に出てくることの方が遥かに変だ。
また僕は一点を見詰めていた。

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