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『ねぇ、ママ』の読書感想文

大好きな『繕い裁つ人』の池辺葵さんの作品です。


表紙が見切れていたので再度アップ

感想を書くと、どうしてもネタバレを含んでしまうので、未読で読みたいと思っていらっしゃる方はスルーして下さいませ。

母をモチーフにした短編集ですが、最初の『きらきらと雨』は、登場する母親の気持ちが手に取るようにわかって、涙なしでは読めませんでした。

息子が就職で実家を出て行く前日の夜ご飯のために朝から息子にも早く帰るように…と伝えて、奮発してご馳走を作って待つ母に、息子から「友人とお別れ会をするから…」と電話が入る。

母との約束なんて友人と天秤にかければ簡単に反故にされてしまうのだ。やりきれないけれど…。

この話を最後まで読んだ時に次男からLINEが来た。急に職場関係の人と食事に行くことになった…と。

私も今朝、早く帰っておいでよ…と次男に言っていたのにリアルに本と同じ夕飯すっぽかしではないか。

でも本と違うのは我が家は明日からも次男と一緒にご飯を食べられるということ。

それは、とても幸せなことだ。
あとどれくらい一緒に暮らせるのかわからないけどこれから先も幾度となく約束を反故にされようとももう!って言いながら許していくんだろうな…。

先に家を出た長男だって、用がある時しか連絡して来ないけど、いつだって全力でOKと言えるように、極力待機し続けていたりするのも、このお話のラストで、おせちを作って息子一家の帰省を待っている母と同じ心境ですね。母とはそういうものです。

かく言う私も自分で気づかないところで、母を淋しく待たせていたのかもしれないなぁ…と思った。

6番目の「stand up」は、引きこもっている洋紀の突然の外出を心配する母に、そっと寄り添う父が印象的でした。ちゃんと息子のことを思っているところが母も心強い。

洋紀自身も観光バスに乗って出かけた先で、連作で何度か登場した那津と亜希の姉妹と出会い優しさに触れ、帰り際には「遊びにおいで…」と連絡先まで渡されて、もうすっかり年の離れたお友達になった。

あったかい気持ちを抱えて自宅に戻れば、心配していた母が出迎えてくれて、物語は終わる。

子ども視点の切ない話もあったけれど、全体的に優しい雰囲気に包まれた短編集でした。










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