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おさえるべき機関投資家シリーズ:シルチェスターはどんな投資家?

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【所要時間:20分】今、株式市場では、” Silchester(シルチェスター)” という機関投資家が注目を浴びています。3月20日には電通グループ(4324)の株式を5.05%保有しているとする大量保有報告書を出したり、1年前の2022年には京都銀行を含む地銀4行に株主提案をしたりする等、何かと株式市場では話題を呼んでおり、その動向がメディアでも報じられる回数が増えてきました。

では、シルチェスターはいったいどのような機関投資家なのでしょうか。本記事では、シルチェスターについて、元大手上場会社の株式実務(IR活動と株主総会対応)を経験した独自の視点で、どこよりも詳しく深堀りした内容になっています。

個人投資家の方であれば、市場で注目されているプレーヤーの動向を把握しておくことは投資判断の参考になりますし、過去の私と同じ職務におられる方でしたら、IR活動や株主総会対応に役立つことでしょう。



1. シルチェスターはいったい何者か?-概要

シルチェスターは1994年にモルガン・スタンレー出身のスティーブン・バッド氏によって設立され、主にイギリス(ロンドン)に拠点を置く機関投資家です。運用資産額は2023年1月1日時点でUS$38billion、日本円で約3兆8,000億円(US$1=100円)です。

約1年前の2022年3月31日時点の運用資産額は42.1billionなので、そこから▲4.1billion減少しています。また、シルチェスターが公表しているプレスリリースによれば、この2022年3月31日時点で1兆9,000億円を日本株に投資しているとのことなので、運用資産額のうち約45.2%が日本株で占めていたことになります。

2022年3月31日時点の東証1部(2022年4月以降はプライム市場に名称変更)の時価総額が約710兆円でしたので、東証1部全体に占めるシルチェスターの保有割合は0.27%に過ぎずません。 

しかし、シルチェスターの運用は、多数の銘柄を保有するというよりかは、銘柄を絞って集中投資するスタイルで、1銘柄当たりに対する保有割合は数パーセントからときには10%を超える割合で保有することがあり、投資先にそれなりの影響力を行使できる規模を有しています。

 

2. どんな特徴があるか?

(1) 長期保有のバリュー運用

シルチェスターの運用戦略は割安株に投資するいわゆるバリュー運用です。すなわち、適正価格(本源的価値)を下回っている株式を保有し、適正価格に戻って上昇する過程で超過収益を狙っていく戦略です。

他のアクティブ運用の中でも、バリュー運用の投資家は、比較的長期間にわたって投資先の株式を保有しますが、シルチェスターも同様です。中にはひとつの銘柄を10年以上保有するケースもあります。


(2) PBR1倍割れ銘柄に投資

では、シルチェスターは具体的にどんな銘柄に投資しているのでしょうか。以下の表は、2022年3月1日から2023年3月24日までの約1年間に大量保有報告書と変更報告書が提出された銘柄の一覧になります。

同一銘柄で複数回提出されている場合は直近のものを載せています。たとえば、A社に関する大量保有報告書が2022年3月1日に提出されていたとして、2023年3月24日に変更報告書が提出された場合は、2023年3月24日の書類を使用しています。

シルチェスターが提出した大量保有報告書/変更報告書①(22/3/1~23/3/24)
シルチェスターが提出した大量保有報告書/変更報告書②(22/3/1~23/3/24)

前述の通り、シルチェスターは、運用戦略にバリュー運用を採用しているので、PBR1倍を割っている銘柄が大半です。また、投資の対象とする業界も、バリュー銘柄がひしめく銀行業や建設業が比較的多く、典型的なバリュー投資家であることがわかります。

銀行銘柄と建設銘柄は、いずれも業界再編が現に起こっており、また今後も再編が加速することが見込まれている業界です。投資先で再編が起これば将来の業績が大きく変わって株価の変動要因となるため、シルチェスターは、こうした投資先の将来の業績が大きく変わるようなイベントも狙っているものと推察されています。

 

(3) 対話を中心とする働きかけ

バリュー運用の機関投資家の中には、投資先の本源的価値を下回る状態を脱するように、株主自らが積極的に経営陣に改善を促して、バリューアップに迫ることを運用戦略として重きを置く機関投資家もいます。

その典型がアクティビストです。アクティビストとは、株主権の行使や経営陣との積極的な対話を通じて、投資先の経営改善を迫る株主のことを指し、パブリックキャンペーンを張って自分たちの主張を公に訴求して巻き込んでいくこと(劇場型)を典型とします。

一方で、シルチェスターは、このような劇場型のアクティビストとは異なり、どちらかというと水面下で個別に経営陣と対話することを通じて、経営改善を促していくスタンス(エンゲージメント型)を基本とします。
※ちなみに、シルチェスターは自身のことをアクティビストではないと明言しています

シルチェスターのエンゲージメント活動は水面下で行われるため、保有先に対してどのような要求をしているのか外部から窺い知ることは難しく、京都銀行等の地銀4行に対する株主提案の事例のように、株主提案がされない限りわからないことが多々あります。

さらに、過去の事例に照らし合わせると、投資先において必ずしも株主提案までに発展しているわけではありませんし、何なら、保有の目的が他の機関投資家と変わらない単なる純投資という場合も十分にあります。

結局のところ、シルチェスターがどのような行動にでるかは、当然ではありますが、個別の事例ごとに見極めていくことしかないということです。

 

3. 具体的にどのような働きかけをするか?

前述の通り、シルチェスターがどのような行動にでるか結局のところ個別に判断するしかないとはいえ、彼らの中でもエンゲージメント活動においてどのようなスタンスで投資先に臨むのか、また、どのようなテーマを扱うか等の基本スタンスはあります。

ここでは、彼らの投資先に対するエンゲージメント活動の基本的な「型」をみていきたいと思います。

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