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3行日記 #138(死の寸前、お待ちやっしゃい、門灯)

二月八日(木)、晴れ

朝、果物にはるか、うまい。キングオブ柑橘系。妻からLINEに画像が届く。以前に商店街の露天商の呉服屋が、しばらく店を休みますとのメッセージをコンクリートのうえに残していたのだが、その場所に別のメッセージが残されていた。「皆様、今年のカゼは恐ろしい。39度の高熱が一週間以上続づき、本当に死の寸前まで行きました。ようやく歩けるようになりましたので、二月十日には営業出来そうです。よろしくお願い至します」(原文ママ)。死、寸、前の三文字の右には、赤ペンで「◎」が添えられて強調されている。大変だったんだなあ。ひとまずよくなったようでよかった。

午前、いつもの喫茶店で。全身黒い服、白髪のおばあちゃんが私の隣の席に座り、私の向かいの席に荷物と杖を置いた。ちょっとここにおかしてもろて。ちょっとお待ちやっしゃい、よいしょっと。はあ、ちょっと休憩。せーの、ほいっ。椅子をずらしてお尻の位置を調整する。珈琲をすする。家のと、ぜんぜんちゃうな。えらいこっちゃ。海老、アボカド、サーモンをはさんだパンを食べ終わる。おなかいっぱいでございます。よし、少しずつ歩こか。杖を手に立ち上がった。マスクどこやったっけ。マスク、マスク。ありがとう。お気をつけて。

昼、商店街の八百屋のおばちゃんが、コカコーラの赤いパラソルの下でお昼を食べている。野菜が並ぶ棚の小松菜と生椎茸に挟まれて。スーパーのお惣菜の焼鯖、赤飯のおにぎりを割り箸でつついて崩して口にはこぶ。その隣には生の茄子がある。生で齧るのだろうか。

夜、昨日の残りのけんちん汁、茹で鶏、KALDIで買った焼き肉のたれをかける。チャックの散歩、左右左、京阪の踏切をまたいで西へ、区役所をかすめて南へ、公園を抜けて商店街を歩いて帰宅。中谷さんの表札を照らす門灯が完全に消えていた。だが、これまでにも完全に消えていたはずなのにまた点滅してついているのを何度かみかけたので、まだわからない。桃山七不思議のひとつだ。中谷さんの消えない門灯、鉄人の鬼シフト、カレーパングランプリの張り紙。ほかの四つはなんだろう。

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