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3行日記 #150(雨、忘れ物、弾け飛ぶ音)

二月二十九日(木)、一日じゅう雨
雨水、草木萌動、そうもくめばえいずる、草木が芽を吹き始める。
雨水、瑞香傳芳、すいこうほうをつたう、沈丁花がいい香り

夕方、近鉄の駅の待合室に、折りたたみ傘を忘れた。電車で移動し、最寄りの駅に着いて座席を立つときに、傘がないことに気づいたが、晩御飯の準備があるのでそのまま家に帰ることにした。調べてみると、当日の忘れ物は駅で保管されるが、翌日には大阪の忘れ物預かり所に送られてしまうらしく、慌てて電話をかけた。たくさん電話が鳴るだろうし、落としてからまだ一時間もたっていないし、駅員さんはそれ以外の業務で忙しいだろうし、通り一辺倒の対応をされるだけだろうなと想像し、期待はしていなかった。担当は男のひとだった。いつごろ、どこに忘れたのか、傘の色、種類、特徴を伝えると、お調べします、と冷静な声。まだ報告はないようです。落とした駅にはすでに駅員がおらず、探しに行くこともできないという。わかりました、ありがとうございます、と電話を切った。晩御飯の準備にとりかかり、もう諦めようと考えはじめたそのとき、電話が鳴った。登録のない番号からだ。もしもし。先ほどのコールセンターの男のひとからだった。先ほどの傘ですが、介助の必要なお客様がたまたまその駅にいまして、駅員が対応するときに、待合所を確認したところ……見つかりました。ありがとうございます!最初の電話から十分ほどのことだったのだが、そんなにすぐに現場の駅員さんに伝わって、きめ細やかな対応ができるなんてすごい。通常の業務で忙しいなかすみませんでした。ありがとうございました。

夜、麻婆豆腐、茹でアスパラ、はるか。晩御飯のあとに話していると、何かが落ちたような音がする。振り向いてみたもののわからない。でも妻は見ていた。決定的瞬間を。パピロンの姿勢を矯正するためにつけていた太い輪ゴムが、弾け飛んだ音だった。ますます大きく育っているパピロンが、ムキムキになってしまった。土砂降りのためチャックの散歩はなし。代わりに、忘れ物の傘を取りに行った。

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