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ネガティブな出発点から始まる、くろしお経営のアプローチ(3/4)

(2019年5月4日掲載、https://kuroshiohr.com/2191/より転載)

前回のブログでは、
①「みんな」がいること
②事業環境と戦略の乖離
③時間とお金の制約

が、個人の尊重を組織の成長と結び付けるのが難しい大きな要因になっているという話を書きました。

逆に言えば、この要因を乗り越えていくのが目指す方向性になります

目指す方向性

①「みんな」がいることによって、
・意見の不一致が起こるのだから、決定を皆に納得してもらえる状態が目指す方向性になります。
・仕事分担の不均衡が起こるのだから、やりたい仕事を皆に渡せる状態が目指す方向になります。
・不平等感が起こるのだから、皆の多様なニーズを満たせる状態が目指す方向性になります。

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②事業環境と戦略の乖離によって、
・アイデアの不足が起こるのだから、必要なアイデアを迅速に結合できる状態が目指す方向性になります。
・必要人材の不一致が起こるのだから、必要人材の質・量を迅速に確保できる状態が目指す方向になります。
・不適切な見返りが起こるのだから、状況に応じて納得感ある処遇ができる状態が目指す方向性になります。

③時間とお金の制約自体を直接的に解決はできませんが、上記6つの状態を目指す上で、常に適切に把握し、効果的に使っていく必要があります

どうやって目指すのか

方向性は見えてきたので、あとはどうやって目指すかです。

これは弊社の企業秘密です。
と、言えば格好がつくのかもしれないですが、どんな組織にでも効く万能薬のような解決策はないと思っています。
実際、組織ごとに課題の内容も課題同士の関係性も異なるため、目指し方も組織ごとに異なります。

とは言え、これまで挙げた各方向性(裏返せば解決すべき課題)が、より強く結びつく人事・組織マネジメントの各領域はあると思います。
そこがわかっていれば、課題と解決策の「捜索範囲」はだいぶ狭められます

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「領域 A) コミュニケーション」
・必要なアイデアを迅速に結合できる
このためには、組織内の情報やアイデアが早く、円滑に行き渡るようにする必要があります。

フォーマルなレポートラインをどうするかというのはもちろん重要です。
同時に、インフォーマルな社員間のコミュニケーションを高めていく必要もあります

例えば、日系企業がずっとやってきている新卒採用は、インフォーマルなコミュニケーションを高めるひとつの方法と考えて良いのかもしれません。
働く部署が異なっていたとしても、同期の気の合う人同士で情報交換というのはよくありますよね。

・決定を皆に納得してもらえる
コンサルタントにも責任の一端はあるのですが、戦略や施策を作り上げるので息切れしてしまい、導入時の組織メンバーへのコミュニケーションがおろそかになってしまうことが多々あります。

概して日本の企業は、出来上がった戦略や施策の社内マーケティングをあまり重視していない、下手なんじゃないかなと思います

実際、賞与原資を基本給に回して社員の収入の安定を図ろうというプラスの施策が、単に賞与を減らされたと受け取られてしまったという、笑えない話もあります。

過去、おそらくその下手さを補っていたのが「根回し」という手法です。
ただ、最近は戦略を経営企画の人間だけで作ってしまう、ひどいと戦略コンサルに丸投げしてしまうという企業も増えているかもしれません。

「決定を皆に納得してもらう」ためには、戦略、施策を作り上げるときの巻き込み、そしてできた後の社内マーケティングが不可欠です


「領域 B) 社内外人材ネットワーク&ジョブマッチング」
・やりたい仕事を皆に渡せる
・必要人材の質・量を迅速に確保できる
この二つを正しく満たしていくために、少し遠回りですが組織メンバーは誰かというのをちょっと考えたいと思います。

企業を例にとれば、無期雇用社員(正社員)、有期雇用社員(いわゆる契約社員やアルバイト)までは、組織メンバーと考えるのが一般的でしょう。

派遣社員はどうか?
雇用契約はその企業と結ばなくても、その企業の仕事をやってもらうわけです。
だったらやはりその組織のメンバーと考えようとする人も多いかと思います。

では、時々仕事を依頼するフリーランサー、個人事業主はどうか?
その企業の仕事をやってもらうという意味では正社員とも同じだが、組織メンバーとはちょっと違うなと思う人も増えるかもしれない。

実は組織メンバーというのははっきりしているようで、はっきりしていない。

そして弊社は、むしろ組織メンバーの定義をはっきりさせず、フリーランサーやアウトソーシング会社を含めた裾野が広いネットワークだと捉えたほうが今の時代には合っていると考えます

正社員だけを組織メンバーとして要員計画と配置を考えるよりも、成長できる仕事を皆に渡し、必要人材の質・量を迅速に確保できる確率は、はるかに高くなると考えています。

視点を変えれば、雇用契約有無に関わりなく、仕事をお願いできる(できれば喜々として受けてくれる)ネットワークをどれだけ広げ、メンテナンスできるかを考えていくことが重要になります

副業をやりたい正社員、断る権利もあるフリーランサー、本人たちのニーズとスキルの凸凹をうまく組み合わせていく必要はもちろんあります。
そのための前提として、組織メンバー個々がどう成長したいか、どういう仕事をやりたいかを、各人の現スキル・知識レベルと合わせてしっかり把握できているということも重要でしょう。


「領域 C) 人事制度 (ワーク–ライフ・バランス)」
・皆の多様なニーズを満たせる

この方向性を実現する上では、人事制度や就業規則といったものをどう作るかが大きく係わります。

出来るだけ多様な「ライフ」に対応できる制度・規則を作るかが重要なわけですが、そのためには逆説的ですが、その組織にとっての平等に対する哲学をどれだけ強く築けるかが重要になってきます

就業時間、仕事の成果、職責、年齢(年功序列)――その組織にとっての平等は色々あると思います。

例えば、リモートワークはOKだけれども、働いている時間を正確に測れるように色々な工夫をしている会社をよく聞きます。

これは就業時間に平等性を持たせようとしているということなんだろうと思います。

しかし、就業時間も、仕事の成果も、色々なものを平等にしていこうとすると、がんじがらめになってしまい、多様性への対応はできなくなります。
だから、意識的にその組織にとっての平等を選択し、そこを軸に多様性に対応できる仕組みを広げていくことが重要です

・状況に応じた納得感ある処遇ができる
(満足はさせられないにしても)納得してもらうためには、処遇するタイミングではなく、約束するタイミングがより重要です

組織の制度・仕組みの中では、目標設定や評価基準も組織と組織メンバーとの約束のひとつです
ところが、納得するどころか不満だらけの評価制度、できることならやりたくないという実感を持つ人も少なくないのではないでしょうか?

その理由はいくつもありますが、「完成された長期に不動のビジネスモデルを前提に、競争を促すための評価制度」であることが、変化が激しい今の時代に合っていないのは大きな原因だと思います。

事業環境の変化が約束に織り込まれず、結果とそれに伴う処遇が、個人の責任になってしまうような制度では納得感の醸成は難しいでしょう

また、評価基準も、不動のビジネスモデルであればこそ、長期的に同じものを使って育成を促していくという考えがフィットします。
しかし不確定要素が多い今、部分的には積極的に評価基準を変え、その意図を毎回しっかり社員に説明していく方が利点が多そうです。

*評価制度については、別途どこかでしっかりまとめたいと思います。


今回のブログのまとめと次回予告

今回のブログでは、組織が目指すべき6つの方向性とそこに大きく係わる3つの領域についてまとめました。
しかし、この6つの方向性と3つの領域だけではカバーしきれない人事・組織マネジメントの方向性、領域があります。
例えば「必要なアイデアを迅速に結合できる」と「決定を皆に納得してもらえる」の間には、「適切な意思決定ができる」ということも重要になります。
そして、そこに深くかかわる領域があります。
次回のブログでは、このカバーしきれない部分について書きたいと思います。

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