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大人になって読書感想文(4冊目)

〈参考文献〉
綾辻行人(2007) 十角館の殺人〈新装改訂版〉 講談社文庫

この本は、「読書感想文書きたいんやけど、なんかオススメの本ない?」と聞いて回って、会社の後輩に教えてもらった本です。その後輩の友達いわく、推理小説好きなら、綾辻さんの本を読まないなんてありえない、そうです。

ところで、推理小説ってネタバレご法度ですが、どうやって読書感想文書くんでしょう。

と一抹の不安を抱えながら、一通り読んだらなんか書けるだろうと思い、読んでみることにしました。

結果としては、大きめの文字で200ページの本一冊を読むのに1ヶ月掛かる私が、500ページを2日で読み切ってしまいました。寝落ちで意識を失わなければ1日で読み切る勢いでした。生活に支障が出そうなので、推理小説はしばらくやめようと思いました。それぐらい、すぐにのめり込んでしまう作品でした。

本編を読み終わり、さて感想文を、と考えたところ、

もし自分の文章がきっかけで本書を読む人がいた場合、その人が「あ〜なるほど」となる文章でないといけない…

と考えると、無理だと思いました。
一旦途方にくれたので、何気なく、読み残していたあとがき以降を読みました。

すると、このあとがきがむちゃくちゃ面白いのです。さらにその後の、綾辻さんよりさらに権威の先生方が書いた本書の解説文がまたむちゃくちゃ面白い。もちろん、白衣の福山雅治さんが言う方の意味です。

これだけで十分感想文が書ける、と思ったので、この度は本書『十角館の殺人』のあとがき・解説の読書感想文を書いてみることにしました。

あとがき・解説を面白いと思ったポイントは2つ。1つは、これを読むことで本編の読み方をより深く知れるということ。そしてもう1つは、推理小説の歴史への訪問です。

まず、本の簡単な説明としては、本編の次のページから綾辻さんのあとがきが始まり、新装改訂版を作るにあたっての苦労などが語られます。その後に、具体的な関係性まではわかりませんでしたが、綾辻さんの大先輩と思われる鮎川哲也氏、戸川安宣氏による解説が続きます。

解説では、本書が「新本格」ミステリーというジャンルに属する本であり、その中でも特にこういう点が特徴的で素晴らしい、ということが非常に具体的に書かれています。

それが本書の正しい味わい方みたいなものをしっかり教えてくれます。また、正しく推理小説を味わう前提知識として、「新本格」という1つのジャンルに関する説明があります。これは、美術の教科書に出てくる「印象派」とか「写実主義」のようなイメージで、時代と共に流れる思想の移り変わりによって、新たに生まれてくる作品の形態の一つだと理解しました。

考えてみたら当たり前のことですが、推理小説も絵画などと同じ芸術作品であって、誕生の歴史があります。とはいえそれが新鮮な感覚で、

実に面白い、と思いました。

以降で鮎川氏、戸川氏の解説文を引用した後、「新本格」というジャンルについて、私が理解したことを書きます。

①(本書が説明する上での)原始の推理小説
「僕にとってミステリとは、あくまでも知的な遊びの一つなんだ。」(p.13)
「以前から推理小説の読者は知識人だった」(p.474)※1
「推理小説本来の興味は、アラン・ポウのジュパンもの以来、『謎』が伝統であった。」(p.475)※1

②社会派・風俗派の通過
「探偵小説という言葉が、推理小説にとって代わられてから、ロマンが失われ、靴の底を擦りへらして、こつこつとネタを集めて、事件の謎を解く刑事が、名探偵の代わりに登場し、新聞の三面記事に出てくる日常茶飯事の事件を、リアルに描くことが、ひとつの流れとして定着してきた。」(p.476)※2

③「新本格」の誕生
「社会派・風俗派の通過は、ある意味において推理小説の視野をひろげ、対象を掘り下げ、程度を高めたことである。(中略)本格ものに還るということは、以上の基礎に立ったものであり、それからの新しい発展である。」(p.475)※1
「つまり、リアリティあるロマンだ。」(p.477)※2

※1:戸川氏の本書解説「《新本格》をめぐる四つの断章」の中で、松本清張氏の文章を引用した箇所。

※2:島崎博「プロフィール・連城三紀彦」(『暗色コメディ』昭和54年 幻影城)…戸川氏の本書解説「《新本格》をめぐる四つの断章」の中で引用されている。

元々、推理小説とは難しい謎に立ち向かうことが魅力なのであって、大衆には受け入れられなくても、一部のマニア層に強く支持されるもの、という認識が一般的でした。(上記①)
ところが、せっかく面白いんだから大衆にももっと浸透させようと考えた人達が、「世相を反映してます」とか、「初心者でもわかりやすいです」とかをウリにした、最近でもよくドラマ化されている、いわゆる刑事ものの小説を生み出す流れを作りました。その結果、推理小説がブームになりました。(上記②)
でもやっぱり、元の本格的な推理小説がまた読みたい…と思う推理小説マニア達。ただ、推理小説のブームが推理小説を多様化させ、可能性を広げてくれたのも事実。だったら、それらの要素を良いとこどりして、新しい本格的な推理小説を作ろう!と考えだしたことから、「新本格」の推理小説が生まれました。(上記③)

このように本書は、昔ながらの伝統を重んじながら、最先端の若者文化にもアンテナを貼っているやり手のCEO、みたいな「新本格」推理小説、ということでした。

そりゃ2日で読み終わりますね。

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