【エッセイ】 空梅雨
梅雨入りがひと月も遅れ、初めてグミを食べ尽くしたのだった。
あの赤い、卵形の木の実である。
果皮が柔く、雨でも降ればすぐに破れ、腐り、黴びてしまうので、たわわに成る実を仰ぎながら、雨はいつか、いつ降るかと、惜しむように食べるのが常、それがまさかの晴天続き、気づけば実はなくなって、あとは届かぬ木上に付くばかり。
田んぼをする人は頭が痛く、声も掛けられぬほど不機嫌で、息子の機嫌を老母が伺い、大変だよと愚痴を言う。
それがこれからの雨で収まるか。
水瓶は底を現しつつ、ちょっとやそっとでは溜まらない。
とはいえ、急な豪雨となるのなら、植林の山の貧相な根が、再び試される季節である。
6月14日記
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