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【随筆/まくらのそうし】 南

 海風が、南の峠にぶつかって、そこで雨が降るのである。

 台風なども南から、温い風がびゅうびゅう吹きつけ、しかし家の構造上、そこに少しの屋根は掛かっても、突き出た軒は存在しない。

 その少しの屋根の下、スズメバチが巣を作る。

 一体何度作ったか、一、二度大きな巣ができて、そのほかの年はできていない。恐らく、大事なときに台風が、その巣に吹き付けたのだろう。

 自然のものは自然を知って、うまく生き残るのだと言うが、それは本当だろうかと、このスズメバチを見て疑問である。

 下手な鉄砲も数打ちゃ当たると、知らないところで巣を作り、当たったものが残るのを、自然を敬う人々が、過大に評価したのではないか。

 スズメバチなどお断り、考えなしに巣を作り、やられる分にはこちらはいいが、あちらは生死を賭けるのだ、賢くなっても良かろうに。

 もっとも、蜂も人と同じ、部屋は南向きが最高なのだと、そう考えているのなら、こちらも何も言うことはなし、どうせその巣も大きくなれば、誰か人を頼むのだから。

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