【随筆/まくらのそうし】 ゼンマイ

 棚田には膨大な法面──この辺りではネキという──がつきもので、けれど、ただ雑草を生やすこともなく、先人はそこに生活の糧を植えた。楮にゼンマイなどは、このあたりで代表的なものである。

 だから、ネキの草を刈るときも、ただ刈るのではない、人は楮やゼンマイは避けて、それ以外を刈るのである。

 とはいえ、楮はもうやる人もなく、その姿は消えつつある。しかし一方ゼンマイは、その葉をいまも茂らせて、春にはよく太った新芽を出す。

 これが灰汁を抜いて食べるのはもちろん、とにかくたくさん取れるので、茹でて干して何度か揉めば、一年も楽しめる乾物となる。

 軒先のザルには、暗い緑に桃色の差した、妖しい色のゼンマイが並び、それから赤く、徐々に黒色に、人が手入れをするうちに、日差しは夏めき、風薫る。

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