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<『アステラスの柔軟な創薬』は、結局のところは原点回帰の話>を書いていて見つけた興味深い論文のはなし

以下のnoteを書いているときに、創薬研究の思想史みたいなものを調べていたら、いつものように寄り道に寄り道を重ね、製薬企業の組織論的な面白い研究を見つけました。

内容はかなり専門的というか、普通読まないよなぁって内容のため、上記のnoteへの記載を断念したものの、ご興味がある方いるかもしれないという気持ちも捨てきれず、黒坂がぐっと来た、2つの経営関連論文をご紹介したいと思います。

<論文1>製薬業界の支配的ロジックの論文

製薬業界の支配的ロジック:大塚製薬の創生期からみる経営システムの変化に関する長期的事例分析
https://mba.kobe-u.ac.jp/oldweb_pics/contents/students/thesis_files/workingpaper/2015/wp2015-6b.pdf 

この論文は、大塚製薬に焦点を当てた論文です。先ほどのnoteの内容からは横道に逸れる内容ですが、個人的には面白いエピソードが織り交ぜられていてとても面白かったです。

この論文からは、
・ロックなエピソード
・創造性を生み出す文化のエピソード
・支配的ロジックの概念の学び
について、抜粋して紹介します。

<論文1-1>ロックなエピソード

大塚製薬の創業から経営の中枢を担った大塚明彦氏は、1970 年の大塚グループの経営会議では、当時ボーリングブームの隆盛に合わせて娯楽産業への多角化を目指そうとした経営陣に対し、大塚明彦氏は「ボーリング場経営は将来を支えるに足る事業なれますか」とひとり疑義を申し立て、創薬への志しの高さを表わした話があり、大塚製薬の徳島工場の第10探索研究所の入口に「初志を忘れぬよう」ボーリングのボールが飾られている。

こういった話は大好物です。一回徳島工場には行ったことがあるのですが、知っていれば見たかった!

<論文1-2>創造性を生み出す文化のエピソード

創造性の源泉となる事例として、大塚製薬ではひとつのプロジェクトが終わればクールダウンの期間を設けてから次のプロジェクトに取り掛かることが挙げられる。クールダウンの期間には、社員に普段の業務では接しない異種異分野の業務に「遊び」として接する機会と余裕が与えられていた。社員にとって「遊び」が「学び」になり、考え方の幅が拡がって創造性を高める起因になるのである。現代の多くの企業には成果主義が蔓延しており、成果追求による効率性が重視される。成果主義が一概に悪いわけではないが、大塚製薬は効率性よりも創造性を優先して、「遊び」を「学び」に変えるという取り組みが創造性の源泉になり、今後の成長を支える重要な要素であると考えられる。

このクールダウン期間については、個人的には凄く大切だと思っています。

これは研究者だけでなく、多くの部署の方にとっても大切だと思います。

余白と言いますか、上記にある「遊び」がないと、個人の持つ創造性は次第に萎んでしまうので、この取り組み素敵だなぁと思います。

<論文1-3>支配的ロジックという概念の学び

UCバークレーの教授の社会学者ニール・フリグスタイン(Neil Fligstein)は、経済社会学、政治社会学、組織論の研究で知られる。彼が提示した「支配的ロジック」を発展させ、製薬業界に当てはめて理論展開している。

「支配的ロジック」を端的に言うと、その企業経営を方向付けている考え方、だと私は理解しました。

本論文では、実際には以下の6つの支配的ロジックの観点で調査しています。

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ちなみにこの研究結果は4つの時代区分において以下の観点で事例分析しています。

リサーチ・クエスチョン
RQ1: 製薬業界での支配的ロジックの変化
RQ2: それに伴う企業の反応
 → RQ2-1: リーディング企業の反応
 → RQ2-2: 大塚製薬の反応

(1)1960 年から1980 年までの製薬業界の事例分析
➤ RQ1: 「生産性の観点」と「マーケティング・販売の観点」に注力
➤ RQ2-1:導入医薬品の製剤の製販事業の遂行を優先
➤ 大塚製薬:積極的なベンチャー精神と急速なスタートアップ

(2)1980 年代の製薬業界の事例分析
➤ RQ1 :「研究開発の観点」と「生産性の観点」と「マーケティング・
販売の観点」の連携
➤ RQ2-1 :自社開発の新薬創出に成功、欧米市場へ海外進出、熾烈な
“接待”競争
➤ 大塚製薬 :創薬の組織体制構築、国内唯一のアジアへ進出

(3)1990 年代の製薬業界の事例分析
➤ RQ1 :「研究開発の観点」を主体に研究開発費を供給する「財務数
値の観点」のサポート
➤ RQ2-1 :ブロックバスターを目指して研究開発の競争を激化、研究
開発費の高騰に対応するファイナンス部門のサポート
➤ 大塚製薬 :研究開発の強化、NC 事業によるファイナンス的サポート
体制、事業化への取り組みに失敗よりも挑戦を優先

(4)2000 年代以降の製薬業界の事例分析
➤ RQ1:「財務数値の観点」の主導と「研究開発の観点」のサポート
➤RQ2-1 :M&A やアライアンスの協業連携、自社研究開発主体から
L&D の体制にシフト
➤ 大塚製薬 :戦略的に財務基盤の強化、水平協業を図りパイプラインを
拡充、技術の探索や評価に研究開発部門のサポート体制


論文2>製薬企業における個人の役割についての論文

製薬企業における技術者個人の多様性と技術成果に関する実証研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaas/29/1/29_1/_pdf

これは題名にもあるように、研究者個人と成果の関係性に焦点を当てた論文です。

アステラスの事例との関連がある研究結果が載せられています。大切な結果を抜粋して載せておきます。

<論文2-1>知識の多様性と成果

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上記の表5で見て欲しいのは、専門分野数と専門疾患領域数のところです。

専門分野はバイオロジーと読み替えると分かり易いと思います。

専門分野は医薬品の根幹でもある知財権の取得にプラスに働く。一方で、専門疾患領域数を見ると、外部へ発表する研究は進まない。

卵が先か、鶏が先か的な結果だと思いますが、非常に腑に落ちる結果です。


<論文2-2>社内コミュニケーションと成果

そして表7で示されている結果も興味深いものがあります。

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これに関する考察は企業研究者であったこともあり納得感のある内容です。

基本的に,相談する頻度が高い技術者は,技術的な情報収集・問題解決が必要な状態にある。相談が問題解決に結びつかない場合もあるため,相談する頻度が高い技術者の方が,相談を受ける頻度が高い技術者と比較して,研究開発成果が低いということが予想される。一方,相談を受ける側の技術者には,社内における異分野の技術的問題に関するトピックが集まるため,多方面にわたり問題意識が醸成されることによって,技術的多様性を追求するきっかけとなる可能性もある。このような技術者は,技術融合の際のキーパーソンとなりうるため,高い研究開発成果を上げることが期待できる。


かなり長い内容になりましたが、私個人としては世の中には色々な研究があることを再認識することができました。

これまでいわゆる生命科学分野の学術論文ばかり読んできましたが、経営関連の論文というのは非常に勉強になりました。

仕事においては、速攻性のある知識ではないものの、今後のお客様とのディスカッションに役立つ引き出しが増えた感覚です。


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