スカイとマルコ(30)・その日が来る前に
久しぶりにマルコの夢を見た。
月子さんと生きていくと決めたぐらいから、不思議と天界のことを思い出さなくなっていた。マルコのことは偶に、どうしているかな、って思うけど、神様と一緒にいるから、心配する必要もないし、それよりも月子さんの一挙一動ばかりが気になる生活に変わっていった。
月子さんの声が心地良く、月子さんの匂いが大好きになった。
月子さんが側にいると幸せで、月子さんがいないと寂しい。
月子さんが嬉しそうだと、あたしも嬉しくなり、月子さんが悲しそうだと、あたしは、どうしたらその悲しみを吹き飛ばせるか一生懸命考えた。
そして、それは月子さんも一緒だった。
月子さんは、あたしが嬉しそうに駆け回っていると、月子さんの心も弾んでいるのが分かった。
あたしのお転婆が過ぎて、怪我をした時は、あたし以上に痛みを感じていた。
一緒にいるだけで幸せで、お互いがお互いを守り合っていた。
そんな時間がどんどん過ぎて、気がつけば、あたしの身体はおばあさんになった。あんなに自信があった駆けっこも、いつからかやりたくなくなった。
だって、膝がガクガクしたり、ギシギシしたりして、痛くなるから。
最近は、歩くことも億劫になった。できれば、ずっと横になっていたいけど、月子さんがお散歩が大好きだから、頑張って、立ち上がる。
マルコとイタズラばかりしていた頃の夢を見た翌朝、あたしを見た月子さんが目を丸くした。
「ソラ、一晩で、毛が真っ白になっているよ。大丈夫?どこか悪いのかな?」
月子さんは、真剣な顔で、あたしの身体の隅々までチェックした。
月子さん、心配しないで、これが普通だから。どこもかしこも古くなっているんだよ。
でも、あたしの毛が一晩で真っ白に変わったのは、自分でもびっくりだ。
そろそろかな。
あたしはこの身体に残された時間がわずかだと感じた。
その日が来る前に、あたしはやりたいことがある。
やらないといけないことがある。
どうか、それまであたしの身体が保ってくれますように。
神様、お願いします。目を瞑った。
すると、頭の中に、また、マルコの姿が浮かんだ。
その途端、あたしの体中に、若いときみたいな元気が戻ってきた。
これまで一度も感じたことがなかったのに、今、マルコのカケラが、あたしに最後のパワーを与えてくれていると分かった。
マルコ、あなたはいつもあたしが必要な時に助けてくれるんだね。
あたしがしたいこと、あなたはもう分かっているんでしょう?
あたしは、この元気が消える前に、やらないといけない。
すっくと立ち上がり、自分で、玄関に置いてあるハーネスとリーシュを咥えて持ってきて、早く散歩に行こうと、月子さんに合図をした。
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