スカイとマルコ(6)・幸運がやってきた
その家族はみんなキラキラホカホカしていた。お父さんもお母さんも10歳ぐらいの女の子もみんな日向の色の膜を纏っていた。
だから、犬舎の犬達はみんな、その家族の一員になれたらどんなに素敵だろう?と思って、猛烈にアピール合戦を繰り広げた。
そんな中を素敵な家族は、目を細めながら、犬たちに挨拶をしながらゆっくりと歩いていく。
「みんな、可愛くて、良い子そうだなぁ。」
「そうね、大きい子も小さい子もみんな可愛いわね。この中から選ぶなんて、出来るかしら。さゆりちゃんはどの子が良いと思う?」
さゆりちゃんと呼ばれた女の子は、ちょっと緊張しながらも、目をキラキラさせて、一匹一匹の犬を見ていった。
そして、あたしの柵の前で足を止めた。
あたしは、柵の奥から、ジッとさゆりちゃんを見つめた。さゆりちゃんもあたしの目をジッと見つめ、そして、クルッとおとうさんとお母さんの方を向いて言った。
「私、この子がいい。」と。
家族に連れ添っていたミサちゃんは、「え、この子ですか。えっと、、、。」と、口をモゴモゴさせた。
その様子に、お父さんが不思議に思い、「この子はもう引き取り手が決まっているのでしょうか?」と尋ねてきたので、そうではないから、更に、ミサちゃんはモゴモゴした。だって、「この子は問題児だから、やめた方がいいですよ。」とは流石に言えない。
「あ、この子は僕が紹介しますよ。ミサさんはあちらの方の対応をお願いします。」
隣で、おじいさんわんこを散歩に連れ出そうと準備をしていたコウタ君がすかさず、助け舟を出した。
ミサさんは、助かったとばかりの表情で、そそくさとあたしの柵の前から姿を消した。
コウタ君は、家族に向き合い、あたしを紹介し始めた。
「この子は2ヶ月ほど前の雨の夜、もう一匹の同じぐらいの子犬と商店街の軒下にいるところを発見されたんです。首輪もないし、数日経っても飼い主らしい人は現れないので、捨て犬と判断し、こちらで保護しました。この子は、かなりシャイというか、気難しいというか、賢すぎるというか、まぁ、率直に言うと、ちょっと難しい子ではあります。でも、ちょっとづつでも慣れてくると、本当に良い子だって分かります。いかがでしょう?少し、犬舎を出て、敷地内を散歩させてみますか?」
コウタ君の説明に、お父さんとお母さんは少し心配そうな表情をしたが、さゆりちゃんは、ジッと私をみて、「うん、私、この青い目のわんこが良い。」と言った。
「じゃぁ、隣の子も散歩の時間なので、一緒に連れて行きますね。犬舎を出たところでお待ち下さい。」
家族が犬舎のドアから出たのを確認し、ケンタ君は、柵の中にささっと入ってきて、首輪にリーシュをつけながら、あたしの耳元で囁いた。
「熊子(あたしはここのスタッフにはそう呼ばれていた。)、これは千載一遇のチャンスだぞ。あの家族は間違いない。俺の勘では良い人たちだ。裕福でもある。貧乏だと悪い人なのかって意味じゃない。実際、俺は貧乏だ。いや、貧乏ってほどでもないか。でも、余裕があるってわけじゃないから、やっぱり貧乏か。いや、今はそんな話じゃない。つまり、裕福だと生活に余裕があるから、犬にもお金をかけてあげられるんだ。でも、裕福でも、人間的にはどうかなーって人たちも多くて、そんな人には俺はここの犬達を渡したくない。現実はなかなか難しい。だが、今日、お前はあの家族に見初められた。こんなすごいチャンスはそうないぞ。
分かるな。これからどんな態度を取ればいいか。今から、お前はあの家族と一緒にいつものお散歩ルートを歩く。いつも俺と歩くのと同じように歩けば良いから。気に入られるようにしろなんて言ったら、お前は嫌だろう?
だから、それはしなくていい。ただ、いつも通りに散歩をする。それだけだ。いいね。」
あたしは、任せてよ、と言わんばかりに、尻尾を振った。
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