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【読書メモ】暇と退屈の倫理学(國分功一郎) 【#76】

國分先生の本は何冊か読んでいました。これも前から気になっていた本ではありましたが、たまたま文庫で売られていた時に、帯の煽り文句が目に止まって中身も確かめずに衝動買いでした。

でも、実際に読んでみると、涙するか?という感じで、ちょっと煽りすぎじゃない?という感じもしました。悪いとういことではないですが、この帯を見て買っちゃうと、中身が思ったより学術書寄りなので、挫折しちゃう人も多いんじゃないかと余計なお世話的に感じました。暇と退屈が気になっているだけではなく、プラス、哲学とかが好きでじっくり向き合う頭脳的体力のある人にとってはとても価値のある本だと思います。

目次
序章 「好きなこと」とは何か?
第1章 暇と退屈の原理論―ウサギ狩りに行く人は本当は何が欲しいのか?
第2章 暇と退屈の系譜学―人間はいつから退屈しているのか?
第3章 暇と退屈の経済史―なぜ“ひまじん”が尊敬されてきたのか?
第4章 暇と退屈の疎外論―贅沢とは何か?
第5章 暇と退屈の哲学―そもそも退屈とは何か?
第6章 暇と退屈の人間学―トカゲの世界をのぞくことは可能か?
第7章 暇と退屈の倫理学―決断することは人間の証しか?
結論
付録 傷と運命ー『暇と退屈の倫理学』増補新版によせて

暇と退屈の倫理学 目次

構成としては、著者が序章の中で説明してくれているので、そのまま抜き出すと

本書の構成について簡単に述べておきたい。
最初の第一章では、暇と退屈というこの本の出発点となる考えを練り上げる。暇と退屈がいかなる問題を構成しているのかが明らかにされるだろう。
第二章から第四章までは主に歴史的な見地から暇と退屈の問題を扱ってる。第二章はある人類学的な仮説をもとに有史以前について論じる。問題となるのは退屈の起源である。第三章は歴史上の暇と退屈を、主に経済史的な観点から検討し、暇が有していた逆説的な地位に注目しながら、暇だけでなく余暇にまで考察を広める。第四章では消費社会の問題を取り上げ、現代の暇と退屈を論じる。
第五章から第七章では哲学的に暇と退屈の問題を扱う。第五章ではハイデッガーの退屈論を紹介する。第六章ではハイデッガーの退屈論を批判的に考察するためのヒントを生物学のなかに探っていく。第七章ではそこまでに得られた知見をもとに、実際に〈暇と退屈の倫理学〉を構想する。

暇と退屈の倫理学 序章

このように、文系の論文はあまり読んだことがないのですが、なんとなく論文っぽい感じです。暇と退屈についての定義から始まり、歴史を整理して現代までの系譜を明確にしています。後半では、ハイデッガーの退屈論を中心に考察されて、最後に3つの結論に帰結しています。

重要なのは、結論の中で著者も指摘しているのですが、第一章から第七章を飛ばして、手っ取り早く結論だけを読んでも全く得られるものはありません。また、結論だけを取り上げて、その文章の意味や言っていることを考察することにもあまり意味がありません。

第一章から第七章を読み進むなかで、自分の中の「暇と退屈」と捉え方が変わってきます。自分の中の「暇と退屈」についての考え方が出来てきた上で結論を読むと、ふむふむ・・・と感じられます。つまり、本文を読んでいく中で、読者が変化していく、その過程を引き出すための本なのです。

そう考えると、おそらく1回目に読んだ結論と、2回目に読んだ結論は感じ方が変わるでしょう。また、結論だけでなく、ハイデッガーの退屈論に対しても共感できるところと、いまいちよく分からないなというところが変わっていくと思います。

僕が得たものとしては、ハイデッガーの退屈の第二形式についてが目から鱗の内容でした。「することがないから退屈」なのではなく「何かに際して退屈する」というのは、今まで言語化できていませんでしたが、指摘されると、僕はこれをよく感じていたように思います。暇で退屈しているというのはすぐに分かりますが、確かに暇ではないが退屈している時があります。気晴らしをしているのに退屈している。言われてみると、最近はいつもこのような状態かもしれません。第二形式の考察からは色々考えさせられました。特に、きちんと言語化できるようになったことで、この現象を理解して、考えることができるようになったことは大きいです。

一つ確実なのは、この本を読むことで、暇でも退屈でもなくなりつつあるということです。まだ、初見なので、2回目3回目を読んでいくのが楽しみな本です。

おわり


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