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かめさんありがとう



十数年ぶりに飼い始めた実家のミドリガメ

数年前まで、実家で4匹のミドリガメを飼っていました。母がカインズホームで小さなミドリガメをみて、また飼ってみようと思ったそうです。私が小学校3年の頃、千葉市の市営住宅に住んでいました。縦長の庭があったので、外に出して遊んだ記憶があります。そのときは、大きくなる前に天国へ行ってしまい、とても悲しい思いをしました。

母も同じ気持ちだったようで、今度こそはと思ったそうです。4匹のミドリガメの名前は、かめきち(雄)もぐり(雄)あお(雄)ななめ(雌)で、もぐりは水槽の中を掘ってるから。あおは甲羅の色が青っぽいから。ななめは家の中を散歩させたとき、壁に向かってななめに立っていたから。かめきちはきっと由来はなかった気がします。

4匹のミドリガメを迎えたとき、実家はあの頃とはまた違う別の千葉市の市営住宅に住んでいました。

最初は小さな水槽に入れて、紫外線をあてていましたが、ある時かめきちの甲羅が火傷のようになってしまいました。あわてて赤ちんを塗ったりして、必死にお世話したそうです。紫外線の装置が熱くなってしまったようでした。

その後も、かめたちを大切に育てているうちに、とっても大きくなりました。水槽では狭くなってきたので、石のような色合いのプラスチックの大きな池を買って、台所に置いていました。

家の中を自由に散歩させていたら、ちゃっかり父の布団の中に入って一緒に寝ていたこともあったらしいです。それを聞いたときは、何とも微笑ましい気持ちになりました。

実家の引っ越し

何年か経って、色んな事情が重なり、千葉市の市営住宅から香取市に引っ越しすることになりました。

庭があるので、かめたちの池を置くために、大きな穴を掘って埋め込み、周りの囲みと花壇の作製、井戸水の整備まで父が全てこなしました。

たまに遊びに行ったとき、かめたちを順番に外に出して、お散歩させるのをみていたのですが、歩くのがとても早い。パタパタパタパタ。グングングングン。しっかり見ていないと、あっという間に遠くへ行ってしまいます。

かめきちがいない

引っ越してから、どれだけ月日が経ったか忘れましたが、事件が起きました。かめきちがいない。庭の前は広々としたさら地です。季節がら草木がたくさん生えていたかもしれません。家の裏手は山で、横は企業の建物と川があります。両親は必死で探しましたが、かめきちはどこにもいません。休憩をしてまた探す。何度も繰り返しました。

とうとうその日はみつかりませんでした。私も電話でその話を聞いて、不安で落ち着かなくなりました。道路に行ってしまったら…水がなくて苦しんでいたら…そして、いつもはトラブル三昧で困った両親だけれど、しょぼくれているのではないか…

翌日もその翌日も、かめきちの姿をみることはありませんでした。

諦めと、もしかしたらその辺からちょっこり出てくるかもの気持ちが混じっていました。しかし現実を考えると、やはり厳しいものがありました。かめきちくん、どうか野生の本能で川に辿り着いて安全な場所で自由を謳歌してね。今まで楽しませてくれてありがとう。

もぐりちゃんがいない

ここからは、嘘のような本当のお話なのですが、かめきちくんがいなくって1年くらい経った頃でしょうか。今度は、もぐりちゃんがいないのです。同じように探しましたが、見つからず帰ってくることもありませんでした。

あおちゃんがいない

そして、また月日が流れたある日、今度はあおちゃんがいないのです。池の周りは高さのある囲いがあるし、脱出するのはかなり大変なはずです。でも、母が言うにはいつも外の世界に行きたそうだったらしいので、手と足の力をめいいっぱい使って背伸びをして、囲いを乗り越えたのかもしれません。かめさんたちはみんなかなり大きくなっていたので、もっともっと広いところに行きたかったのかな。

ななめちゃんがいない

とうとう、雌のななめちゃん一匹になってしまいました。ななめちゃんは毎年卵を産んでいました。4匹揃っていた頃、ななめちゃんが産んだそばから、かめきちくんが食べるという連携がなされていたことを思い出しました。

しばらくは静かだったななめちゃんでしたが、次第に外へ出たそうにバタバタするようになりました。かなり頑丈な設備にしない限り、ななめちゃんが出ていくのは時間の問題です。

季節が巡り、産卵の時期に入りました。ななめちゃんは毎日池の端っこにいったりして、ちょっと苦しそうにみえたそうですが、その日は突然やって来ました。ななめちゃんがいない。まだまだこれから卵産むだろうに、そんな体で今出ていくの?母は考え込みました。

誰もいない池

ついにななめちゃんまで…私もかめさんたちがいない池を想像して、とても寂しくなりました。かめさんのことも勿論心配ですが、両親も心配でした。どこでどうしているかもわからない。みんな自分で出て行ってしまった。大好きなエビをあげたり、お水をかえたり、甲羅を歯ブラシでゴシゴシしたり。お散歩させたり。もういないんだって思ったら、寂しくてたまらないんじゃないか…

お日様にあたるのが、好きだったかめきちくんに、♪ぽっかぽっかかめきち ぽっかぽっかかめきち ぽっかぽっかぽっかぽっかぽっかぽっかかめきち♪

なんていう歌を作った母。きっとみんな川で合流して仲良く暮らしているんだ。私はそう思うことにしました。

かめたちの旅立ちストーリー

おいら、明日ここを出ていくね。かめきちさん行かないで。かっぱちゃんとさんくんには赤ちゃんの頃からお世話になりました。2人を大切にみんな仲良く暮らすんだよ。元気でね。さようなら。またどこかで会おう。

そして時を経て、おいらも旅に出るときが来たよ。もぐさんまで行ってしまうんだね。2人仲良くね。元気でね。必ずどこかで会おうね。さようなら。

そしてあおちゃんまでも…ななちゃんを1人にすることになってごめんね。ななちゃんは1番小さくて唯一の女の子だね。かっぱちゃんとさんくんが寂しがらないようにそばにいてあげてね。いつかどこかで。さようなら。

ななめちゃんは、あおちゃんの後ろ姿が見えなくなるまでずっと見つめていました。

急に池が広く感じました。かっぱちゃんとさんくんも、とうとう一匹になってしまったななめちゃんをみて、複雑な思いを感じました。

それからななめちゃんは、季節がくると1人で卵を産み、淡々と日常を繰り返しました。ななめちゃんは感じていました。私もそろそろここを出ていく日が近づいている。心の中で4人分の感謝の気持ちをかっぱちゃんとさんくんにめいいっぱい捧げ、ある日の早朝、静かに池を後にしました。さようなら。今までありがとう。

誰もいなくなった池を見つめ、色々な出来事を思い出すさんくんとかっぱちゃん。きっと高齢の私達のことを思い、負担にならないように、でも寂しくならないように、1人ずつ時間をかけて出ていったのかもしれない。かめさんたちの優しさだったのかもしれない。ありがとう。

両親の別居と池の解体

その後、2人は様々に絡み合った事情から別々に暮らすことになりました。

いつものようにリビングにいたかっぱちゃんは、何が起きたか今となっては分かりませんが、倒れてしまいました。目が覚めたときには、近くのテレビも倒れていました。腰を強打損傷しました。さんくんもかけつけ、ぼうやとちょびも楽に座れるソファーを買って訪ねました。さんくんは新しいテレビを買いに一緒に行ってくれました。

4匹のかめさんたちは、もう2人が自分たちのお世話が出来なくなることを分っていたのかもしれません。

きっと4匹のかめさんたちは、近くの川で合流して、また仲良く暮らしているでしょう。広い広い川を自由気ままに。

誰もいなくなった池は、さんくんとぼうやで解体して、囲いも全てはずしました。そばで見ていたちょびはとても切なくなりました。さんくんが一生懸命作った素晴らしい池と花壇、壊しちゃうんだ。でも、庭にはたくさんのきれいな花が咲いています。梅の木もあります。私達がいるよ。だから、悲しまないで。と言っているような気がしました。

時々、さんくんが庭のお手入れをしに遊びにやって来ます。いつまでもこの穏やかな日常が続いていきます。かめさんの思い出を胸にしまって色んなことにありがとう。

絵本の紹介

かめたちが家を出た後に、「かっぱちゃんと月さま1」「かっぱちゃんと月さま2」というものを書きました。ほぼ本当の話ですが、一部想像です。その中にも、かめたちがいなくなったことを書いています。
絵本では、かっぱちゃんは実母。さんくんは実父。ぼうやは夫、ちょびが私というキャラクターです。

かっぱちゃんと月さま1(絵本)

かっぱちゃんと月さま2(絵本)


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