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雷を避けて蝶々を探したのは犯人じゃない

隠しきれていないが私は根っからのゲーマーである。
女子でゲームの話をすると気持ち悪がられたり、男子ウケのためにやってるんでしょとやっかむ人もいるが、私はもう本当にゲーマーなのである。

幼稚園の頃、初代ファミコンのスーパーマリオブラザーズから始まり、星のカービィ、ぷよぷよなどやり続け、セガサターンとプレイステーションの二大巨頭が今の私を形作っている。
他にもドリームキャストやXbox、最近ではポータブルであるVitaやDS、Switchまでも部屋に揃っている。

中でも初代プレイステーション、PS2、PS3、PS4は全て揃っているし、今でもちゃんと動く。
そんなささやかな自慢はさておき、私にはゲームにまつわるどうしても忘れられない出来事がある。

それはPS2にファイナルファンタジーXがリリースされ、圧倒的グラフィックに誰しもが歓喜した2001年夏。
ファイナルファンタジーシリーズとしても初めてボイスが搭載され、ストーリーもバトルも臨場感あるものになった。
Googleでは実に92%の人が高評価とするゲームである。

何度学校をズル休みしたことかわからない。
進学校に通っていたのでこのズル休みは後でから痛いしっぺ返しとなるのだが、その時はそれどころではない。

もう何もかも楽しかった。
まさしくファイナルファンタジーというイマージナルワールドに引き込まれ、寝ても覚めてもサボテンダーと格闘したり、召喚獣を呼んでみたり、スフィア盤を制覇しようとしていた。

そんなことだから素直にラスボスまで行くはずもなく隠し召喚獣を口説きに行ったり、飛空挺があるのにチョコボで毎日スピラを縦断したり、強いモンスターと戦いたいがために訓練場に通い詰めた。

そしておそらくやり込み要素最難関であるのが「七曜の武器集め」だ。
最強の武器にして見た目もかっこいい、いわゆるチートな武器なのだ!
しかし入手方法はとても難しい。
ほとんどが各種ミニゲームをクリアしなければいけない。

中でも雷平原の雷除けはプレイヤーを苦しめたのではないだろうか。
エリアチェンジとセーブなしで、ランダムに落ちてくる雷を連続で200回避けるというものである。
これには反射神経とリズム感と集中力が必要で、普通に頑張っても達成できない初見殺しのミニゲームである。

当然、攻略法は存在し、私も自力でこれを達成する。
達成するまで3日かかった記憶がある。

さらに「蝶探し」や「ブリッツボール」「チョコボレース」など難関のミニゲームを全てクリアして、私は全ての七曜の武器を集めることができた!
もう嬉しくて最強裏ボス「全てを超えしもの」をるんるん気分で倒しに行った。
その後ラスボスも難なくクリアし、ファイナルファンタジーX生活にひと段落した頃、事件は起きた。


その日は雪が積もった冬の真っ盛りだった。
毎日大雪が降り続け、自宅の一階ほどまで雪が積もって大変だったことを覚えている。
そんな日に、家に泥棒が入った。

平日で仕事から帰宅した両親がその異変に気付き、110番通報をした。
警察によると雪の上の足跡から犯行経路は2階の弟の部屋の窓から侵入したようだ。雪で二階の屋根まで上がることができたのである。
犯人は弟のゲーム機やゲームソフトを全て盗んでいった。
だから犯人はほぼ弟の友達である可能性が高いと言われた。

私にもすぐに、盗まれたものがないか自室を確認せよとのお達しがきた。
部屋に戻ると、何も盗まれた形跡はない。
よかったよかった、とソファに座り込んだ瞬間、違和感に気付く。

「あれ?テレビの上のPS2が…ない!!」

スッキリしてしまった私のゲーム専用テレビの上にあるはずのものがない。
どうやら私のまで盗んでいって中古屋に売ったのだろう。
ゲーム機ならまた買えばいいしな、と思い直した矢先、全身から冷や汗が噴き出してくる。

「え…ちょっとまって…」

手も足も唇も震えている。
もしかして、もしかして、というイメージが先行して頭がうまく回らない。

「私の、メモリーカード……」

ちーん。
というSEが聞こえてきそうなほどの展開である。

知らない人のために補足するが、メモリーカードとは今で言うSDカードとかUSBのようなもので、セーブデータを記録するものである。
ふつう、メモリーカードはPS2に挿しっぱなしにしておくことが多いため、私のメモリーカードはセーブデータごと盗まれたことになる。

つまり、私のあの壮絶なるやり込みの日々は…データは…今犯人の手中にあるのだ。
こんなことがあってもいいのだろうか。

雷を避けて蝶々を探したのは犯人ではなく私なのだから!


あれから大人になって冷静に考えてみると、こんなことはよくあることだと思った。
例えば誰かが努力もせず技術や著作物を盗んで、自分のものにしたり転売したりする。
もう18年も昔の話なのに、人間は変わらないかもしれない。

しかし私は学んだ。
私があの時体験した世界は私だけに価値あるもので、データが誰かの手に渡っても私の感動や達成感までは入手できない。
そう、モノには価値がないのだ。

あんなことがあったが、その数ヶ月後新たなPS2とファイナルファンタジーXとメモリーカードを買い直して再チャレンジをした。
やっぱり雷除けは難しいが、私は自分にしか体感できないものを大切にしたいと思う。


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