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その名は、ラバ子。


「あっらぁ〜、ゴムみたいだねぇ〜
ラバ子っ、ラバー、ラバチャン〜♡」

初めて帰省した時のお義母さんの第一声は「ラバ子」

黒いぬさんのことである。

黒々と華奢なイタグレとはちがい
ガタイのいい背中は、
リビングの照明を反射して
新品タイヤの艶と光沢そのもの。

お義母さんウマい、
ほんと、ラバー素材そっくりなラバ子。


そのラバ子が、
お腹を壊した。冷えたらしい。

夜、常備薬の下痢止めを麺棒で粉にして
少量のフードとお湯で溶いて飲ませた。

しばらくは、落ち着つきをみせたのも束の間、
深夜、早朝、トイレに。
床に爪が当たる足音は、ヨタヨタと心許ない。

こちらもあわてて飛び起きる。

付き添って、巻き取ったトイレットペーパー片手に
待ちかまえ、片付けていたら、朝になった。
小さい身体がしんどそうだ。

いつもお世話になっているどうぶつ病院へ電話を掛け向かう。
ダンゴになったテールランプの赤に
イラついてしまう。

主治医のまるやま先生がお休みなので、
診察は、くまモン似の院長先生。

メガネを掛けたくまモンが、
ぶ厚くなったカルテをめくり、
「15歳と3か月かー!!!でも、毛艶がいいね」
(だってラバ子だもん)

くち、みみの中、おなかをていねいに触って確かめる。
「やっぱりお腹ゆるいね」
聴診器を当て「心音、雑音は問題なし」
ラバ子こと黒いぬさんはよほど辛かったのか、診察中も台の上でおとなしく
くまモンの言葉に「うん、そうそう」といった風に目を細めた。

ひととおり触診、問診が終わると

くまモンが口を開いた。

「あのね、15歳って、もう余命なんですよ。いま元気でも
明日どうなるかわからない。突然急変することだってある。
そういう特別に与えられた時間って思ったほうがいいです」


わかってた、わかってたけど、
そう思いたくなくてずっと打ち消してたこと。

どんなに覚悟してわかっていても、
キッパリ言われるとたまらなく怖かった。

お会計を待ってる間、あたまに廻る言葉が脳みその上っ面をダダ滑る。

待合室に戻った。
わたしは、黒いぬさんをお気に入りのブランケットで抱っこしたまま落ち着きなく
立っていた。

壁の「天国からの手紙」は見たくないし、文字の羅列でしかない。

このnoteの名前は黒いぬ雑貨店なのに、黒いぬさん(ラバ子)のことを
書けなかった。書くことが怖いと思ったのははじめてだった。

だってね、いぬの姿をしているだけで、こどもみたいに育ててきた子なんだもん。
それなのに人間とちがって親である飼い主より先に虹の橋を渡ってく。
じぶんのことより、
覚悟なんてまったくできていない。

思うのは、今この子もわたしもとんちゃん(夫)も
ちいさなリビングの無印の全員ダメになるイスに寝っ転がって、
毎日笑って、うーんと、しあわせで、
息をして、ごはんを食べ、ウンチをして、片付けて、
おはよう、おやすみって、こんぶみたいなにおいの後頭部を嗅いで、暮らしてる。

何が正解かは、わかんない。
けど、それでいい。

ラバ子はもらった薬を溶いて混ぜたごはんをおいしそうに食べた。
たりなくて不満顔で「ギーギーッ」とおかわりもねだられた。

これを書いているわたしのオシリ1/3しか座れてない。
ラバ子によってイスの2/3を取られてる。
そろそろオシリ痛いけど、
いびきのリズムで押されてぬくもると安心する。

大丈夫。ラバー素材って耐久性に優れてる。
だからラバ子もうんと長生きするよ。








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