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《感想》アガサ・クリスティー著『ひらいたトランプ』/アガサの遊び心

今回再読するのは『ひらいたトランプ』


アガサ・クリスティーについておさらい

アガサ・クリスティーは、1920年代から
1970年代まで活動していた作家さん

『ひらいたトランプ』は名探偵ポアロシリーズ 1935年発表作品

同年には『ABC殺人事件』(こちらも名探偵ポアロシリーズ)を発表しています


『ひらいたトランプ』あらすじ

名探偵ポアロは“僕の収集品をお見せする”とシャイタナ氏にパーティに招待された
パーティに招かれたのはポアロ含め8人

食事を堪能した後、ブリッジ(カードゲーム)をすることに
ポアロ含め4人は喫煙室へ案内され
残りの招待客4人は客間へ、そして招待主のシャイタナ氏はゲームに参加せず客間の暖炉前で椅子に座り一人くつろぐ

ポアロ達がゲームを終えて客間へ戻ると招待客らはゲームに夢中
そしてシャイタナ氏は…

ブリッジの点数表を通して ポアロが真相を読み解く


『ひらいたトランプ』感想

ブリッジ(カードゲーム)に夢中になっている4人 でも
シャイタナ氏(被害者)と同じ部屋にいたその4人の中に犯人がいるのは確実って状況 
出入りしたものもいない

当時ワクワクしながら読み始めた記憶があります

事件も真相もシンプル。ブリッジの点数表がポイントの一つ。でも正直、ブリッジの点数表を見てそこに気が付くかと問われると わたしは気が付けなかったな… 注意深い人ならわかるのかな?

でもそれはブリッジのルールを知らないからではないと思う
ポアロが容疑者4人それぞれにブリッジの点数表を見せながらゲームがどう展開したのかを聴き取りすることで
ゲーム中の4人の様子も、ゲームの流れとルールの話も4回繰り返すことになるから それが読み手へのルール説明にもなっている

だからポアロの推理を読むとなるほどねーって
なんといえばいいのか…感心します(わたしの語彙力無さがかなしい)

どちらかというと容疑者4人を捜査する過程、そこを楽しむ作品だと思います


『ひらいたトランプ』感想(※ネタバレあり)

あらすじにあるシャイタナ氏の“僕の収集品”とは人のことなんですよね
しかもシャイタナ氏が言うには”犯罪を犯して巧みに逃げおおせた人間たち”だそうで つまり8人の招待客は
”過去に犯罪を犯した”客間にいた4人 と
”(広い意味での) 探偵”の喫煙室にいた4人という構成

人を収集品扱いとはまた…
さらにシャイタナ氏が性格悪い
ポアロら”(広い意味での)探偵”4人の招待時刻を、8時に
シャイタナ氏いわく”過去に犯罪を犯した”4人を、8時15分にと
わざと時間をずらして招待している

本当に罪ある人間からすると、パーティーに招かれた先でシャイタナ氏だけでなく警視やら探偵やらに出迎えられるって恐怖でしかない

極めつけはシャイタナ氏、会話の中に君らの罪知ってるよアピールを細かくいれてくるし
シャイタナ氏いわく”過去に犯罪を犯した”4人が客間でカードゲームしている様子を横目に 楽しんですらいる
結果的に、自業自得

ただし、あくまでも シャイタナ氏が言うには なんですよね
”犯罪を犯して巧みに逃げおおせた人間たち”
”過去に犯罪を犯した”4人
そこに証拠は何もない。

だから捜査を担当することになったバトル警視は、シャイタナ氏の事件と同時に過去の事件も捜査することになります。過去の事件が犯行動機と思われるからですよね。
ヒントとなるのはシャイタナ氏が君らの罪知ってるよアピールした時の言葉「毒薬」「事故」「医者のもみ消せる手違い」「射撃中の事故」

バトル警視は表向きには”現在の犯行動機”を調査しています
容疑者らは”過去を”捜査されていることを知りません

”過去を”調査していることを知られないように捜査する過程。
そこを楽しむ作品だと思います


アガサ・クリスティーの遊び心(※ネタバレあり)

『ひらいたトランプ』には他のアガサ・クリスティー作品にも登場するバトル警視、推理小説家のオリヴァ夫人、諜報員のレイス大佐と勢ぞろいなのがファンとしてはうれしいところ

オリヴァ夫人は『ハロウィーン・パーティー』『死者のあやまち』など
レイス大佐は『ナイルに死す』
バトル警視は…作品名覚えてない(すまん)

他にもパーティ中の会話で
ポアロが別の招待客に「ABC事件を解決したのはあなた?」と質問されていたり(ネタバレ無しです)

推理小説家のオリヴァ夫人の代表作タイトルが「書斎の死体」だったり
(アガサ・クリスティー作品にもミス・マープルシリーズの同名のタイトルがある)
など細かくあってアガサ・クリスティーの遊び心がクスッと笑える

それからこの『ひらいたトランプ』の事件の話は 別作品に出てきてます
そのタイトルは、ネタバレが過ぎると思ったので最後に書くことにしました


バトル警視は理想的な上司(※ちょいネタバレあり)

〈略〉
それに誰でも、仕事には自分のやり方があると思うんです。わたしはいつも警部たちに自由にやらしてます。
どの方法が一番自分に合っているか、自分で見つけろって言ってやるんです。

早川書房クリスティー文庫
『ひらいたトランプ』加島祥造訳

いいですね〜
出てる作品覚えてなくてバトル警視ごめんね


『ひらいたトランプ』の話が出てくる作品のタイトル(※ネタバレあり)

*****
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***
**

『ABC殺人事件』です。こちらも名探偵ポアロシリーズで しかも『ひらいたトランプ』と同年に発表された作品です

ディナーを注文するように犯罪を注文できるとしたら…
相棒ヘイスティングズとの会話の中で ポアロはこう答えます。

「四人の人間がブリッジをしていて、それに加わらない一人が暖炉のそばの椅子に座っている。夜明けになって、暖炉のそばの男が死んでいることが発見される。四人のひとりが、ダミーになって休んでいるときに、そこにいって彼を殺したが、ほかの三人はゲームに夢中になっていて気づかなかった。
<略>四人のうちの誰がやったのか?」

早川書房クリスティー文庫
『ABC殺人事件』堀内静子訳

まんま、ですよね。
この時点では『ひらいたトランプ』事件は発生していない
名探偵ポアロは未来を予言したんですね


お時間あれば



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