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3月末の鎌倉 待ちに待った花

なんだかんだと毎月通っている鎌倉。大体月末頃に訪れているので習慣化してきた気がする。せっかくだから来月からも続けていきたいなと思ったり。

今月は遂に、妙本寺の桜と、花海棠が咲いたとの情報をツイッターから得たので3月最後の土曜日に行ってきました。開花してた、という情報の日付は3月25日。5日間、大雨が降ってくれるなよとそればかり願ってました。開花したばかりとは言え、やっぱり雨が降るとすぐ散ってしまう気がして。
当日は天気予報が心配だったものの、なんとか日中は曇り空のマーク! 春に合わせた薄抹茶色の紬を着て出かけました。

祖師堂前の海棠! 満開!
この三ヶ月間の中で一番人が多く訪れているように感じました。先月の梅の時は快晴だったので、撮影に来ている方がいましたがそれでもぽつぽつといった感じで……この日は少し肌寒くも感じる日和でしたが、海棠と桜の木を撮影されている方がたくさんいました。
以前の日記では門前の高い木が海棠だとか言ってるんですが(この日の日記です)見事に違う!!! お寺の方に聞いたはずなんだけどな……? なにか勘違いしていたようです、恥ずかしい。改めて、こうして花が咲いてみると一目瞭然ですね。

日蓮聖人銅像の前の桜は満開でした。背が高いので見上げるような形ですが、すっかり春色に包まれています。これで晴れていたら最高だったのに……! 来週にはもう散り始めるのかなあと思うと、この時期特有のやるせなさを感じます。春ですね……。

再びこちらは海棠の花。可愛らしいピンク色の花がたくさんついています。

小林秀雄『中原中也の思い出』より抜粋
鎌倉比企ヶ谷妙法寺境内に、海棠の名木があった。こちらに来て、その花盛りを見て以来、私は毎日のお花見を欠かしたことがなかったが、去年枯死した。枯れたと聞いても、無残な切り株を見に行くまで、何だか信じられなかった。それほど前の年の満開は例年になくみごとなものであった。名木の名に恥じぬ堂々とした複雑な枝ぶりの、網の目のように細かく別れて行く梢の末々まで、極度の注意力をもって、とでも言いたげに、繊細な花をつけられるだけつけていた。私はF君と家内と三人で弁当を開き、酒を飲み、今年は花が小ぶりの様だが、実によく附いたものだと話し合った。傍で、見知らぬ職人風の男が、やはり感嘆して見入っていたが、後の若木の海棠の方を振り返り、若いのは、やっぱり花を急ぐから駄目だ、と独り言のように言った。蝕まれた切り株を見て、成る程、あれが俗に言う死花というものであったかと思った。中原と一緒に、花を眺めたときの情景が、鮮やかに思い出された。今年も切株を見に行った。若木の海棠は満開であった。思い出は同じであった。途轍もない花籠が空中にゆらめき、消え、中原の憔悴した黄ばんだ顔を見た。
(中略)
晩春の暮方、二人は石に腰掛け、海棠の散るのを黙つて見てゐた。花びらは死んだ様な空気の中を、まつ直ぐに間断なく、落ちてゐた。樹蔭の地面は薄桃色にべつとりと染まつてゐた。
あれは散るのぢやない、散らしてゐるのだ、一とひら一とひらと散らすのに、吃度(きっと)順序も速度も決めてゐるに違ひない、何んといふ注意と努力、私はそんな事を何故だかしきりに考へてゐた。驚くべき美術、危険な誘惑だ、俺達にはもう駄目だが、若い男や女は、どんな飛んでもない考へか、愚行を挑発されるだらう。花びらの運動は果しなく、見入つてゐると切りがなく、私は、急に厭な気持ちになつて来た。我慢が出来なくなつて来た。
その時、黙つて見てゐた中原が、突然「もういゝよ、帰らうよ」と言つた。私はハッとして立上り、動揺する心の中で忙し気に言葉を求めた。
「お前は、相変らずの千里眼だよ」と私は吐き出す様に応じた。
彼は、いつもする道化た様な笑ひをしてみせた。

この文がすごく好きで、また引用してしまいました。
中也と小林が揃って海棠を見に妙本寺に訪れたのは、昭和12年4月20日のことです。花びらが散っている様子を小林は書いていますから、やはりこの時期から咲き始めて、4月の終わりには散ってきていたのでしょうか。小林・中原と親しくしていた吉田秀和は、小林の『中原中也の思い出』を引用して次のように書いています。せっかくなのでこちらも抜粋。

吉田秀和『中原中也のこと』より抜粋
この歌舞伎の情景みたいな文章をよんで、私は私なりに、ハッとした。そうして考えた。中原は、こうやって、とうとう死んだのだ。すると、彼は、ともかく人間とは和解したのだろうな。そうして、ひさかたの春の光の中で、静心なく、散ってゆく花みたいに、彼は死んだのだ。実際、彼は死ぬずっと前から、自分の死を見ていたんだ。
私は、たしかには中原に会ったことがあるにはちがいないが、本当に彼をみ、彼の言葉をきいていたのだろうか? こういう魂と肉体については、小林秀雄のような天才だけが正確に思い出せ、大岡昇平のような無類の散文家だけが記録できるのである。私には、死んだ中原の歌う声しかきこえやしない。

小林は中也が死んだ後にこの海棠を見に行ったエピソードを書いていますが(なんと十二年も経ってから)、4月20日の中也の日記は小話のそれと比べると「あまりにもそっけない」と言われていますね。

中原中也の日記 昭和12年4月20日
『中原中也全集 第4巻 日記・書簡』より抜粋
岡田来訪。
小林を誘つて日本一の海棠を見にゆく。
大したこともなし。
しかしきれいなものなり

へえ、そうなのか、と私は思って、このピンク色の花が咲くのを待っていたわけですが、「大したこともなし」だなんてとんでもない! 現在妙本寺にある海棠は中也たちの時代から数えて三代目らしいですが、大変素敵なものでした。でも、「きれいなものなり」とは言ってるんですよね…(笑)
長い年月を経て再会した親友と見上げた海棠の花に、中也は何を思ったのでしょう……隣で、動揺を押し隠し、憂鬱に似た思いを抱える小林の空気を、どう感じていたのでしょう。黙ったままの中で、「もういいよ帰ろうよ」と告げた心境を想像すると、この春にふさわしい花がとても切なく見えます。
でも、「いつもする道化た様な笑ひを」と小林は書いています。7~8年もの間、二人が疎遠になっていたとは思えないような感覚だなあと思います。それだけ離れていても、小林の中での中也は「いつもするような」笑いをしていたのだなと。
この後も、彼等は頻繁に会っていることが日記から伺えます。時には家族ぐるみで遊んでいたみたいです。中也が死ぬまでの間、少しでも彼等の魂が穏やかであったことを願うばかりです。(願いや祈りって、未来だけではなく、過去にも使えるんですね。)

ここからは鎌倉美味しいものの忘備録メモ。
この日は友人と一緒だったので、妙本寺で花見をした後は歩いてお昼へ向かいました。場所はこちら。

歐林洞 鎌倉本店(食べログサイトへ飛びます)

鶴岡八幡宮を抜けて少し歩いた場所にあります。お店に行くのは初めて! 確か銀座にもありますよね……? ハイソサエティな空気を感じる素敵な店舗。入り口正面には二階へ続く螺旋階段、左手にはテイクアウトコーナーとギフト用の茶葉や焼き菓子が並ぶショーケースがあり、右手がイートインルームになっていました。部屋の中央には大きなケースがあり、その日のケーキを直接見て選ぶことができました。
私達が訪れた時は、たまたま開いていたせいか、奥まった席ではなく外に面したサンルーム席に案内していただけました。ラッキー! 見るからに鎌倉マダムが通っているんだろうなと小並感な感想を抱きつつ、ランチタイムで提供されていたキッシュのセットを注文しました。1,300円。この雰囲気で優雅な気分を味わうにしては大変リーズナブル!

こちらの店舗、嬉しいのがテーブルウェア全てウェッジウッドだということ! めちゃくちゃテンションが上がってしまう~~~!!! ウェッジウッドが好きすぎるんですよね……ティーカップも少しずつ買っているんですけど、こうやって実際に提供されるとそれだけで嬉しくなっちゃいます。キッシュは注文を受けてから一つずつ作って焼いているのだとか。

紅茶はランチセットについてきました。この日の茶葉はレッドアップルという名前のフレーバードティー。赤色が綺麗なお茶! セイロン系かな? 甘酸っぱい香りとすっきりした味わい。白いカップによく映えます。
キッシュの後にはケーキを頂くことに。ショーケースを眺めつつ、どんなケーキなのかお店の方に説明をしていただいてチョイス。テイクアウト不可らしい「サバラン」と、お店オリジナルの「パトロン」というチョコ菓子を注文しました。

オレンジの香りが鼻に抜けていくサバラン。白いフォルムはメレンゲで、ふわっと崩れていきます。周囲のオレンジソースは苦味がほんのりと残ってケーキによくあいます。

こちらが「パトロン」。チョコレートのお菓子なのですが、チョコに包まれた中身は和栗を使った餡がぎっしり! くりきんとんの洋風版というか……和洋折衷な不思議なお菓子。チョコの種類は四種類あって(ブラック、ミルク、抹茶、ホワイト)、私はミルクを選んでみました。手のひらに乗るほどの大きさですが、一口で食べてしまうのは勿体無い! 甘さは想像していたより強くありませんでしたが、香りがよく紅茶にとても合うと思いました。

欧林洞でおしゃべりをした後は、小町通りのほうまで戻りながら「和菓子っぽいのが食べたくない?」という話になり……甘い物さっき食べただろ! というのはナシです。
そんなわけで、この日の締めは小町通りにあるこちらのお店にて。

しらたまや(食べログサイトへ飛びます)

オリジナルのぜんざいっぽいものを提供してくださるお店! ティータイムでしたがお店はちょうど空いていたのですぐに座ることができました。私は抹茶しらたまと梅昆布茶を。友人は季節限定の「苺」を注文していました。白玉とフレッシュストロベリーがたっぷり使われた見た目も可愛いセットです。抹茶はソースではなく本当のお抹茶。ムース、餡この甘さによくあうこの苦味がたまりません! 白玉もモチモチで美味しかった~! 大きさも一粒が大きめで大満足です。通りからは少し横に入った場所にお店があるので、訪れる方は地図を見たほうが無難かと思います。

さて、3月の鎌倉遠足。今回も満足な内容にすることができました。
4月終わりに海棠が散る様子を見ることができればいいなあ……。次回は文学館にも足を伸ばしたいと思います。

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