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ダボス会議8つの引用についての所感

追記:2月4日の日本経済新聞朝刊で本投稿が取り上げられました。皆様のおかげです。本当にありがとうございました!

スイスのリゾート地で世界経済フォーラムの年次総会、通称ダボス会議が開催され、24日に閉幕しました。世界経済フォーラムは毎年1月に年次総会(開催地の名称に因んで通称ダボス会議)を開催します。世界から、財界、政界、国際機関、市民セクター、学術界のリーダーら約3,000名が参加して、グローバルレベルの課題について議論・情報共有をしています。今年の年次総会の討議テーマは「持続可能で団結力ある世界を築くためのステークホルダー間連携(Stakeholders for a Cohesive and Sustainable World)」でした。

メディアでは世界最大の運用会社ブラックロックによるESG投資強化、欧州中央銀行による中央銀行の役割検討といった特定の主体の具体的なコミットメントが取り上げられました。

今年がパリ協定5周年となることもあり、数あるESG要因の中でも気候変動に関するコメントが多かった印象があります。本投稿では以下の資本主義についての8つの引用について所感を述べたいと思います。

1つ目の引用で、セールスフォース・ドットコムのトップは資本主義の悪影響について以下のように述べています。

資本主義は死んだ。利益最大化に専念させる圧力により不平等や非常事態を引き起こしてきた。

また5つ目の引用でハーバード大学の歴史学の教授も同調しています。

資本主義はあらゆる経済システムの中で最悪のものだ。そこから逃れようとする試みは何度も行われてきた。

もちろん資本主義を富める者をますます富わせ、貧しい者がその貧しさから逃れられないようにする仕組みと考えれば、修正すべきものでしょう。またダボス会議の参加者の大半が前者の富める者であることを考えると、自己否定しているようにも見えます。

2つ目の引用ではオランダの化学メーカーのトップが資本主義が見落としてきたものについて述べています。

経済の真の目的は皆が幸福に生きることであるはずなのに、稼ぐことでそれが達成されると考えることで、真の目的から逸脱してきたのかもしれない。

もちろん生きていく上で最低限の経済力が必要なのは言うまでもありません。しかし他人の不幸の基に豪奢な生活を正当化することについて疑問を抱くべきとも指摘している気がします。

これらの資本主義の修正の必要性に対し、3つ目の引用では世界経済フォーラムの創設者は企業にとっての機会として強調、4つ目の引用ではドイツのメルケル首相は産業革命以来のビジネスのやり方を変えなければならないと述べています。

これに対する反応としてGPIFの水野CIOは日本企業はこれまでも顧客や従業員などステークホルダーへの配慮に熱心だったと6つ目の引用で述べています。この点は私の著書でも「三方よし」など江戸時代の商家の家訓に現れていることを指摘しており、キリスト教を基礎とした欧米のESGとは別の起源を持っていることを強調しています。

7つ目の引用では経済学者が政府の役割の重要性を述べています。

規制の形であれ、政策の形であれ、企業の行動を変えるのは政府の責任である。

もちろん重要性は否定しようがないのですが、実効性を考えると企業が規制や政策を待つことなく、自ら行動した方が早い気がします。よく引き合いに出される日本企業の手元現金の水準ですが、以下の記事によると506兆円まで積みあがっており、大半の国々のGDP水準を遥かに凌駕しています。

また冒頭に紹介したブラックロックのESG投資強化も、その投資残高が日本のGDPに匹敵する水準であることを考えると非常に重要な動きであることが分かります。

ただし最後の引用でマイクロソフトのCEOが株主の長期的な利益に触れているように、企業が株主以外のステークホルダーにどこまで配慮するかは消費者や従業員等それぞれの立場からこれからも見定めなければなりません。

現代社会において企業のCEOはステークホルダー資本主義を株主の長期的な利益のためのものとして意見交換すべきだ。

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