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かけがえのないものだから〜本のひととき〜

「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」佐々涼子


図書館のビジネスの棚にあった。職業を紹介するジャンルの本に混じって。見覚えのあるタイトルは配信ドラマと同じだった。

国際霊柩送還士。
一体何をする職業なのだろうか。
本書はエアハース・インターナショナル株式会社を取材し、執筆したドキュメンタリーだ。

日本で亡くなった外国人の遺体はどうなるのか。また海外で亡くなった日本人の場合はどう扱われるのか。
これが取材のきっかけだという。

エアハースは羽田空港国際線貨物ターミナルの一角にある。
外国人や日本人の遺体を故国に搬送する国内初の会社。
興味本位では踏み込めない世界だ。著者は事前準備をし、事業者としての職業倫理を尊重した形で取材を始めた。時には許される範囲まで現場に同行した。

遺体を空路で搬送するには数々の問題がある。だた運べばいいのではない。適切な処置を施し、遺族のもとに遺体を返す。

現地で荼毘に付すこともあるだろう。
でも再会を望む遺族がいる。ちゃんと向き合ってお別れができるように、最後にたった一度のさよならを言うための機会を用意するのが彼らの仕事だ。

葬儀は悲嘆を入れるための「器」

こんなふうに考えたことはなかった。
一時期葬式不要説も挙がったことがある。
実際周りで同じような声を聞いたこともある。
葬儀って誰のものなんだろう。

大事なひとを亡くすのは悲しい。
身が引きちぎられるようで、回復には時間がかかる。だってもう二度と会えなくなるのだ。
そんな悲嘆をくぐり抜けるために、ちゃんと悲しみに向き合うために葬儀はあるという。
「きちんとしてやれた」と思えることがほんの少しの救いになる。「何もしてやれなかった」後悔はひとを悲嘆の渦から救ってはくれないだろう。

悲惨な場面も多々ある。遺族の気持ちに寄り添いたい。その気持ちを振り切って目の前の仕事に向き合うのが彼らだ。
誰よりも悲しみを知り、生き抜くことの大切さを感じている。
生を終えても遺体はものじゃない。かけがえのないものだ。だから運転にも心を込める。
現場スタッフの全員が遺体を尊重し、気持ちはひとつだ。

生きざまも死にざまも人生。












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