「何度でも出会うひと」〜本のひととき〜
「大人の迷子たち」岩崎俊一
出会いはフリーペーパーだった。
ふと手にした東急電鉄の「SALUS」。
当時は利用路線ではなかったけれど、美しい表紙やしっかりした装丁、中でも連載のエッセイが好きで、毎月ラックのありかを探していた。
そのエッセイが本書。
著者の岩崎俊一さんはコピーライターだ。
名前にぴんと来なくても、彼の手がけたコピーを見れば気づく人も多いだろう。
きらめく言葉の数々はとても紹介しきれない。
誌面では1ページ程度のエッセイだった。
ふだんの暮らしの中に湧き上がる小さな感動。忘れていた感情を呼び覚ますように、何度も私の心を打った。
冒頭のコピーはリード文だ。
そこからするすると言葉が紡がれる。
彼が「人生でいちばん多感な時代」と称する昭和30年代。
私はまだ生まれていないので映画や本の中でしか知らないのだが、エッセイを読むと目の前に光景が広がる。
右肩上がりで豊かになっていった時代。
得たものも失ったものもある。
過去の出来事を回想しながら、今の自分と重ねてみる。
今の自分はどうだ。
懐かしさとほろ苦さ。そんな彼の心の動きまで伝わってくる。
エッセイを読み終えてから、また冒頭のコピーに戻る。
なるほどという納得と、じわりとした余韻が現れる。
数年前「SALUS」に彼のページがないのに気づいた。
新聞で訃報を知った。
本書刊行から数ヶ月後のことだ。
残念でならないけれど、彼の言葉は残っている。
これからも彼の世界に出会うことができる。
そのときどきの自分と重ねて、自ら問いかけながら、私はこれからもページをめくるだろう。
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