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【詩】一つだけの疵痕

窓からさしこむ

明るい陽の光が

あまりにも眩しくて

堅く閉じたまぶたの裏に

浮かぶ一人の男。



もう二度と思い出したくもないのに

目を背けた先には

必ず彼がいる。



眠れない夜

まっくらな部屋で

天井をただ見つめている時に

彼も私を見つめている。



オフィスの澱んだ空気の中で

きしむ心に耐えかねて

目を手で押さえた時に

彼は私を笑っている。



私を解放して欲しいのに

彼は私の心を

わしずかみにしたまま。



いや

私の方から

彼という牢獄に

自ら入獄しているのだろう。



忌まわしき思い出に

囚われているのではなく

私がそれを手放さない。



彼との過去が

どんなに苦痛でも

これ以上はない絶望でも

そこにあったのは

私の生きた証。



私が心の底から

求めて

泣いて

笑って

そして望みを棄てた記憶。

傷跡。



私が塵に還る日まで

この思い出に囚われる

この思い出を手放さない。

この思い出を

地上の疵痕として

刻んでおく。



私が消えれば

疵痕もなくなり

すべての痕跡は

なかったことになる。



そして私は永遠に眠る。

この大地と

一つの卑しき魂を

辱めた回憶と共に。



私だけと共に。

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