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季節雑感

家のすぐ裏手には神社がある。
こんもりとした小高い見晴らしの上にある神社で、わたしの家は、その神社に上る急こう配の、古い石の階段に面している。神社の正面入り口ではなく、裏手の入り口にあたるため、幸いにして人通りはほぼなく、静かである。

朝は、小鳥の声で目を覚ます日もある。
神社周辺は桜を始めとした木々に取り囲まれているから、鳥にとっては好都合な居場所なのだろう。パジャマのままベランダに出ると、葉をさらさらと鳴らす風が肌に触れる。天気が良ければ海の波がきらめいているのが見え、遠く、カモメの声も聞こえてくる。こうした立地が気に入って、少し不便ではあるが、坂の上のこの物件に最近引っ越してきた。以前、碁盤の目のような都市にすんでいたときよりも、ここに来てからの方が、季節の微細なヴァリエーションを感受しやすくなったと思う。

(…)

季節により、風の質が変わる。
夜、ベランダに出て、目を閉じて空気を吸うとわかる。
春は、実にさわやかだった。しかし今の季節、風は神社周辺を覆う夏草の呼気を多分に含んでいて、少々生ぐさい。でも、悪くは無い。夕闇から、いつか――たぶん10代半ばの頃――のお祭りの夜の記憶、高揚した気分がふとよみがえり、いまこの時のフィーリングにブレンドされる。しっとりとして、片想いのあの人への憧れと寂しさの混じる夏の夜だ。悪くは無い。人生を味わいながら、生きていけるよろこび。うちの裏にカミサマがもしいるなら、有難うと言っておきたい。

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