見出し画像

【小説】「straight」059

「何か、感じが違いますね」
 普段着の彼女を初めて見た悠生は、正直にそう言った。

 会社の受付では、紺の制服をキチンと着こなし、知的な眼鏡を掛けたお嬢様に見えるからだ。

「家では、結構動きやすい恰好してるんです」
 化粧っ気のない彼女は、いつもより幼く見えた。
 挨拶をして立ち去ろうとした悠生を、西野は呼び止めた。
「少し、休憩していきませんか?」


「澤内さん、夜風が恋人だったんですね」
 ベンチに腰掛けた西野は、悠生からコーヒー缶を受け取って悪戯っぽく微笑んだ。

「どっちかというと、ライバルかな」
「ふうん」
 よく意味が分からない感じの彼女に、悠生は事情をかいつまんで話した。

「課長には、内緒にしておいてね」
「分かってます」
 西野は、胸を張って答えた。
「駅伝部のコーチかぁ、どおりで全然私とつきあってくれないはずだわ」
「よせやい、本気にしてしまうじゃないか」
「結構、本気なんだけどな……」
 少し残念そうな表情を浮かべた西野は、気を取り直して言った。
「私、派遣社員だから、今までも色んな会社で、色んな人を見て来た。だから分かる」
 彼女は、優しい表情で悠生を見た。
「澤内さん、いま結構いい顔をしている。本当の自分を、ちゃんと見つけてる」
「……ありがとう」
 自分より少し年上の彼女から貰った言葉に、悠生は感謝した。

(やっぱり、俺は間違っていない)

 決意を固めた彼を見て、西野は満足そうな表情を浮かべた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?