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【小説】「straight」099

(身体が、軽い)

 地面を蹴りながら、光璃は自分を包み込む不思議な感覚に酔いしれていた。

(今の私には、路面の砂一粒一粒、空気の流れる線まで分かる様な気がする。
 どこまでも行ける、誰にも負けない……)


 彼女は確信する。
『走っている時、私の体は路面から浮かび上がり空を飛んでいました。まるで鳥のように』

(D大駅伝部一年の澤内さんは、箱根第六区を走りながら、こんな感覚を抱いていたんだ)

 彼と同じ領域を共有する事が出来た光璃は、こみあげる嬉しさを隠しきれなかった。


 モニターを見ていた観衆が、それに気付く。
「おい、先頭のあの娘、笑ってるぞ」
「ホントだ、いい笑顔じゃないか」
「きっと、走っているのが楽しくて仕方ないんだろうな」
 彼女の屈託ない笑顔に思わずほっこりしている彼らの後ろで、まだ値札の付いた帽子を目深に被った一人の男が、小さくガッツポーズをした。


(へへへっ)
 ひとしきり笑った光璃は、再び表情を元に戻した。

(ありがとう、みんな。
 私の我が儘で作った駅伝部を支えてくれて。

 そして、ありがとう、澤内さん。
 あなたに出会えなければ、こんな経験する事なかった。
 本当に、ありがとう……)

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