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【小説】「straight」084

「真深ちゃんっ!!!」
 転倒した状態で起き上がらない真深に、月菜が駆け寄った。

 肩に手を掛けようとして、差し出そうとした手が止まる。

「もうタスキは渡っとるんや、触らんでええ」
 右手を前に出して、真深は月菜を制した。

 一瞬気を失っていたらしく、二三度ぶんぶん頭を振って立ち上がる。

「……その顔」
 彼女の顔を見て、月菜の血の気が一気に引く。
 眉間をざっくりと切った真深は、顔面を鮮血で真っ赤に染めていた。

「大丈夫や、こんなのツバつけときゃ直るわ」
「ごめんなさい、私が早く気付いてれば」
(私が、もっと差を付けていれば……)

 ぐしっと涙ぐむ月菜に向かって、真深は優しく言った。
「月菜、カレカレとの約束覚えとるか?」
「え」
「タスキは、みんな笑顔で繋ぐんやろ」
「真深」
「笑ってえや、その方が絶対ええで」
「……ん」
 月菜は、何とか少しの笑顔を見せた。

 それを見て、こちらも満足そうに微笑んだ真深は、大きく伸びをして立ち上がる。

「よっしゃ、浪速女の底力を見せたるでえ!」
 そう言った彼女は、もの凄い勢いで走り去って行った。

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