【小説】「straight」044
「飲み過ぎたあ」
料亭備え付けの、大きな露天岩風呂に身を沈めながら、悠生はふうっと息を付いた。
平日なので他にお客さんは無く、今は彼の貸し切り状態である。
(ヤケになって、冷酒一気してたのが響いてるな)
悠生は、先程までの自分の行動を反省した。
(まあ、確かに浮かれたくもなるさ)
彼女達の思いもかけない成長ぶりに、カケに負けたショックよりも大きな喜びを覚えていたのだ。
(2ヶ月前とは、みんな見違えちまったな)
思わずほころんできた頬を引き締めて、悠生はかぶりを振った。
(だが、ようやくこれで四分六……いや、まだそれ以下かも)
彼の脳裏に、今も焼きついている光景。
聖ハイロウズ学園駅伝部の、マシーン軍団。
目の前に浮かんで来たモヤモヤを、悠生は一気にお湯をかけて振り払った。
(ここまで来たら、やるしかない。
選手の個性を生かすと殺す、どっちが正しいのかをハッキリさせるんだ)
一つの問題を考え終えた彼に、また別の問題がわき起こって来た。
(俺、いつまでこんな事出来るんだろう)
現在、彼女達を鍛える為、悠生は毎日午後3時以降は会社に全く戻っていない。
それは商談先より直帰であったり、早あがりだったりと、あれこれ理由を付けてはいるが、営業課長はうすうすおかしいと勘づいてる様だ。
このままの状態を、いつまでも続けている訳にはいかない。
もしバレたら、職務怠慢で間違いなくクビだろう。
(この大会が終わるまで、それが潮時だ)
自分の気持ちに線を引いた悠生は、最後に思った。
(ならば、残りの時間、あいつらに出来る限りの事をしてやりたい……)
悠生の背後で、パシャッと水が撥ねた。
誰か入ってきたのかと思い、ひょいっと振り返った悠生の目が大きく見開かれた。
「澤内さん……」
そこには、バスタオル一枚の光璃が、湯船の中に立っていた。
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それは、ヒトツノオモイヲツナグ、モノガタリ……
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