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【小説】「straight」057

 ひとしきり笑ったあと、悠生が月菜に聞く。

「月菜、ハイロウズの去年のタイムは?」
 彼女は即時に頭の中のページを繰る。
「えっと、一時間十一分二十秒です」
「俺が思うに、今年はあと三十秒は縮めてくるだろう」
「私達のベストタイムが、この前計った一時間十四分三十秒」
 柚香が、ぐっと唇を噛みしめる。
「……三分四十秒差か」

(まだまだ、奴らの背中は遠い)

 全員が足を止め、黙り込んでしまう。

「確かに、タイムだけで言ったら完敗だろう」
 彼女達の不安を察してか、悠生は沈んだ5つの背中に声を掛けた。

「ただし、奴らはトラックの上でしか物事を判断していない。多分、全員が3000メートル9分台の選手を揃えてくるだろう。それが逆に弱みとなる」
 彼は続いて、これからの彼女達を方向づける言葉を言った。
「お前達には自然が味方している。俺はそう言った練習をしてきたつもりだ」

「山を走り、自然と語り合い、一つになる事で、人はまた強くなれる」
 光璃は、悠生が繰り返し言ってきた言葉を口にした。
「道と語り合い、一つになれば、私達はまだまだ強くなれる!」
「そういうことだ」

「……鳥にもなれる」
「それはどうかな」
「あら」

 誘い水をあっさりかわされて、光璃はバランスを崩した。

「さあ出発だ、各自自分の区間をしっかり見ながら走るんだぞ」
 悠生はパンパンと手を叩き、彼女達にハッパをかけた。

5人は、再びコースを歩き出し、道路に語りかける様にしてイメージを磨いていった。

 そう、奇跡を信じて……。

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