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【小説】「straight」081

「はっ!」
 月菜が、曲がり角で身体を捻る。

 一拍置いて、彼女が今迄通っていた空間に、右肘がひゅんと高速で通り抜けた。

「あら、ごめんあそばせ」
 完全に遊んでいるハイロウズ二番手、石川眞理香(いしかわまりか)が、おほほと含み笑いをする。

「……どういたまして」
 肩で息をしながらも、月菜は気丈に返事をかえした。

 第二区も中盤戦、前半2キロで石川が次々と繰り出す卑怯業を、月菜は最初の一回以外全てかわしてきた。

 相手の行動パターンを呼んで対応している彼女の非凡な才能の賜物だが、無駄な行動は彼女の体力を確実に蝕んでいる。

(まだまだ、まだまだ。
 あと、もう少し……)

 何とか呼吸を整えて、月菜は大地を大きく蹴った。

 
『月菜の長所は、広い視野を持っている事だ』
 三日前、いつもの散歩の最中、彼女は並んで歩いていた悠生からそう言われた。

『でも、ただ見るだけじゃ駄目だ。見たものをどう活かしていくか、考えるんだぞ』
『澤内さん、そこ』
『え?』
『100円、見つけました』
 月菜は、そう言って地面に座りこんだ。

『ホント、お前はよく見てるなあ』
『へへっ』
 半分呆れ顔の悠生をよそに、100円玉を拾った彼女は、得意気に胸を張った。

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