【小説】「straight」064
「こんな感じかな?」
鏡の前で、柚香はぎこちない笑顔を浮かべてみた。
「うーん、何か不自然よねぇ……」
通りがかった母親が、何をやってるんだと不思議そうに娘の方を見る。
柚香は、いたって真面目だった。
(ただでさえ辛いのに、走ってる時までこんな表情出来ないよぉ)
(笑顔で、ゴールかあ……)
「澤内さん、私にはキツい課題です」
(私は、鳥になれるのだろうか?)
寝室の窓から星空を眺めて、光璃は問いかけた。
(そもそも、鳥になるってどんな感じなんだろう……)
彼女は、頭の中で想像してみる。
大空を自らのつばさで自由に飛び回るイメージは、あまりにも現実離れしたもので、光璃にはいまいちピンと来なかった。
でも、彼女はあきらめなかった。
「私は、鳥だ」
暗示をかける様に、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「わたしは、D大の澤内悠生だ」
それぞれの夜が更けていく。
そして、明日が今日となる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?