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【小説】「straight」043

 それから二週間。
 光璃達は毎日、弾尾山の大自然に挑んで行った。

 登山前に、悠生が決まって言った言葉。

「山を走り、自然と語り合い、一つになる事で、人はまた強くなれる」

 登りより、下りの方が足腰にかかる負担が倍以上にキツイ。
 その中で走りをコントロールかつスピードアップするには、腰の位置・身体の線を一定に保たなければならない。

 あっそうか、プールでの地道なトレーニングは、この為にやっていたんだ。

 彼女達がそう気付いた時には、全員が往復二時間の壁を打ち破っていた。

 本番まで、あと10日。


「くわんぱーい!」
 ジュースの入った六個のグラスが、活き造り豪華舟盛りの真上で小気味良い音をたてる。

「うっひょー、うまそー」
「今日は澤内さんのオゴリだもん、めいっぱい食べちゃおっと」
「変な約束するんじゃなかった……」
 悠生は目の前に広がる豪華料理を見て、頭を抱えた。

 二週間前、目標タイム全員クリアまで三週間はかかると主張する悠生に、真深達は猛反発した。
 そこで、二週間以内にクリアした時、彼女達全員を料亭での豪華ディナーに招待する事を約束させられていたのだ。

「あら、こちら元気おまへんなあ。ささぐっといきましょ」
 先刻大トロを口一杯頬張ってゴキゲンな真深が、担いで来た一升瓶を彼にすすめる。

「大吟醸か、これって領収書落ちないだろうな……」
 そのラベルを見て、ますます落ち込む悠生であった。


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それは、ヒトツノオモイヲツナグ、モノガタリ……

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