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【小説】「straight」080

 モカコーラ販売A地区ブロック総括G主任 増沢武彦。

 以前、悠生がマネキン販売で顔を合わせた、いけ好かない商売敵である。


 彼の姿を見て、大伊里は黙って頭を下げた。
 それは、地方の一セールスマンに対して取る行動にはおよそ見えなかった。
 学園を運営するメインスポンサーの社員であるから、当たり前の事なのであろうか。

 増沢は、当然の様にそれを気にせず言った。
「ちゃんと、命令通りやってんのか?」
「はっ、それはもう……」
「ほんなら、何で一位じゃないんや?」
 画面の月菜を指差して、増沢はギロリと大伊里を睨み付けた。

「それが、桔梗女子の一区の選手が、予想外にしぶとくて、うちの大西も離されないのが精一杯で……」
「言い訳はええ」
 増沢は、大伊里の言葉を途中で遮った。
「今日の大会、地元の偉いさんがぎょうさん集まっとる。おまけに、何の因果かマスコミまでうじゃうじゃ居おる」

 ゆっくりと、彼は大伊里に近付いていく。
 その首根っこをふんづかまえて締め上げた増沢は、耳元で怒鳴った。
「ええか、これはチャンスやけどピンチやねん。絶対負けられへん勝負なんやで!」
 血の気が引いた表情となった監督を放り出し、彼は吐き捨てる様に言った。
「勝つんや、どんな手段を使こうてもな」

 激しく咳き込む大伊里を見向きもせず、増沢はその場を後にした。

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