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【小説】「straight」063

「応援? そんなん気恥ずかしいわ、来んでええって」

 受話器を片手に、真深はぶっきらぼうにそう言った。

「ほかに男が出来たやって、そんなんあるわけないやん。うちみたいなん、誰も相手せえへんよ」
 彼女は言葉を付け加える。
「まあ、からかいがいのあるお兄さんはおるけどな……ん、こっちの話、気にせんといて」
 暫く相手の言葉に耳を傾ける。
「分かった分かった、気合入れてやるから。うち明日早いからもう切るで、あんたも早よ寝えや」


「ここで加速する、と」
 机に向かってメモ帳を読んでいた桔梗は、大きく伸びをして呟いた。
「なんか、余計に緊張して来たな」

 第一走者である彼女は、レースの前日は興奮状態から、いつもなかなか寝つけなかった。
 今夜も9時前にベッドに潜り込んだのだが目が冴えてしまい、やむなくペースノートの復習をしていたのだ。

 もう一度スタート地点からイメージトレーニングを行おうとした彼女の耳に、スマートフォンの着信音が聞こえた。
 枕元に手を伸ばし、受話ボタンを押す。
「もしもし……あ、月菜ちゃん?」


「私も寝つけなくてさあ」
 ベッドに腰掛けた月菜は、受話器の向こうの桔梗に話しかけた。
「ほら、寝たらせっかく覚えたコースの特徴が抜けて行きそうじゃない」
『なんか、月菜ちゃんらしいや』
 桔梗は笑って、そう言った。
「私はともかく、桔梗の不眠解消にはいい方法があるわよ」
『え、何?』
「タスキ、持って帰ったでしょ」
『あ、うん』

 明日の駅伝大会で使用するタスキは、昨日選手全員で作成した。
 裏面にそれぞれの意気込みを書き入れたそれは、桔梗が保管していたのだ。

「それをぎゅっと持って、明日一着でゴールする夢を見て頂戴」
『なんだかそれもプレッシャーだなあ』
「そうか」
 月菜は笑った。

 結局、二人は日付が変わるまで、他愛のないおしゃべりを続けていたのだった。

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