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【小説】「straight」108

 稔流の話を要約すると、次の様になる。
 モカコーラとBWの業務提携は、以前から双方の役員レベルで話題に上がっていた。

 提携推進派だった福山副社長は、慎重派の大西社長を押さえ込む為、ある秘策を打った。
 BWの株を、モカコーラの役員に横流しにしたのである。
 更に、悪知恵が働く彼はstraightドーピング事件を画策、社長以下その一派を一掃した。

 この時の実行部隊が、モカコーラ専務である松澤武彦であった。
 そして、事件のほとぼりが冷めたところで両者の提携を発表、株価が上昇した所で持ち株を売却し、大儲けしようと企んだ。


「ところが、当時のstraight開発担当者、澤内悠生の扱いについては、福山も相当悩んだらしい」
 稔流は、黙っている悠生の方を振り返った。
「とりあえず地方支店に左遷させたが、何か余計な動きをしないか、松澤専務が増沢武彦と身分を偽って監視していた。で、澤内君が高校駅伝に選手を送り込む事を嗅ぎつけ、変に事件を蒸し返されたくない彼等は、必死に桔梗女子の優勝をくい止めようとした訳さ」

 最後に、稔流は話をこう締め括った。
「福山元社長と松澤専務は先程逮捕、その他関係者も書類送検されました。よって、みなさまが疑いを掛けられていた澤内君は、全くの無実。straightも無実です。これからは私が自ら先頭に立ち、失われた信頼を一刻も早く取り戻して参りたいと思います。本日は有り難うございました」


 稔流が挨拶を終えるやいなや、記者団は一気に慌ただしくなった。
「おい、これは大スクープだ!」
「すぐ会社に戻るぞ」
「アライ、モカコーラの方、至急当たっとけ」
「ぐずぐずするな!」

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