【小説】「インベンションマン」009
学園みらい10番地にある文化会館は、別名『プレスステーション』と呼ばれている。
建物の北端および南端の部屋が、それぞれ男子新聞部・女子新聞部の部室となっているからだ。
以前は1つの部だったのだが、ある年にお互いの方針が食い違ったため2つに分裂。
特に、昨年冬流と夏純が編集長に就任してから、新聞部の南北朝戦争は更に激化していた。
まあ実際にそう思っているのは、当人同士だけだったりするのだが……。
男子新聞部の部室から出て来た一人の男子生徒は、目の前を駆け抜けていく小柄な少女に声を掛けた。
「あ、紀原さん」
自分の名前を呼ばれ、紀原愛唯(きはらあい)はくりんと振り返った。
彼女の胸元では、大きな一眼レフカメラが揺れている。
「あ、どもども」
「そんなに急いで、どうしたの?」
「相談室からの依頼で、例の下着泥棒の情報収集。北朝(そっち)も来ているでしょ?」
「ああ、左尾キャップがヒートアップしている」
「『南朝のかすみ頭には負けるな』って?」
「そうそう」
二人は笑った。
「でも、今回私は単独行動なんだ」
そう言って、愛唯はカメラを構えた。
「本職は、写真部(こっち)だからね」
その頃……
「へっきしん!」
デスクに腰掛けていた夏純は、大きなくしゃみをした。
「うーっ、誰かがウワサしているのかなぁ」
鼻先を擦った彼女は、部室内の空気が止まっている事に気づき、バンと机を叩いた。
「こら、誰が手を止めていいって言った!」
夏純の怒声に、10数名の新聞部員達が再び慌ただしく作業を続ける。
「相談室も正式に動き出した。絶対ウチらが犯人を挙げて、北朝(ひだりまき)の鼻をあかしてやる」
手元に置いていた愛用の木刀『紫陽花丸(あじさいまる)』を握りしめながら、うふふふふっと不気味に笑う。
その姿は、さながらSMの女○様なのだが、部員達は誰も突っ込む事は出来ない。
それどころか、「お姉様……」と呟きながら頬を上気させている危ない一年生も数名いるようだ。
彼女達を意に介さず、夏純は窓の外に目をやりながら呟いた。
「7番地か。とうとう『禁断のエリア』にメスを入れることになるのかねぇ……」