【小説】「straight」074
桔梗女子の走る順番は、当初の通り。
第一区、競技場をスタートして6キロの区間を出雲桔梗、次の二区、4.0975キロを一枝月菜が受け持つ。
折り返し地点がある第三区の3キロは、勝負強い相原真深、第四区3キロを水野柚香が繋いで、第五区5キロのアンカー、佐山光璃が再び競技場に戻り、栄光のゴールへと向かう。
スタート時刻が近付き、第一区の選手達が招集された。
名前通り、桔梗色のユニフォームに身を包んだ桔梗は、右手にしっかりと同色のタスキを握りしめ、スタート地点に向かった。
(私の仕事は、一番で月菜にタスキを繋ぐ事。
そして、笑顔でゴールすること)
開始前の決意表明をした彼女の元に、一人の選手が近寄ってきた。
「競技前から、随分目立ってるじゃない」
いきなり声を掛けられた桔梗は、振り返って相手を見た。
その顔には全く覚えがなかったが、彼女の胸に書かれた学校名には、嫌という程見覚えがあった。
『聖ハイロウズ学園』
思わず身構えた桔梗を品定めする様にじろじろ見た彼女は、やがてフッと笑って言った。
「あなたが、桔梗女子で一番のランナーなの? 意外だわ」
(なにおう?)
ちょっとカチンときた桔梗だったが、敢えて彼女の言葉を無視した。
「知ってる?女子一区は、『花の一区』って言ってね、その学校で最も実力がある人が選ばれるのよ」
気にせずに話を続けた彼女、桔梗の前に回り込む。
「あなたは、私に勝てるかしら?」
「そうね、やってみないと分からないわ」
あからさまな挑発をさらっとかわした桔梗は、すたすたとその場を去った。
残された彼女は、ぎりっと歯を軋ませる。
「……潰してやるわ」
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