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【小説】「インベンションマン」005

 たまみらい学園は、国内最大級の敷地面積を誇る事から、構内も番地区分がされている。

 東南東の外れにある『学園多摩13番地』には、新設校には相応しくない、かなり寂れたエリアが存在していた。

 予算の都合なのか、噂では建築事務所の建物をそのまま残したと言われている、鉄筋3階建の専門棟。
 その一階に『技術準備室』と書かれた部屋があった。

 アルミ製の扉の前に立った源無は、無言でドアノブを握り込む。
 程なく、脳内に先程の電子音声が聞こえてきた。

『指紋とIDヲニンショウ。源内春都(ミナイハルト)げーといん』
 一拍置いて、ロックの外れる音がした。
 室内に春都が入っていく。

 6畳程のスペースを囲むようにして、実験器具や工具を入れた棚がひしめき合っている。
 部屋の中程にあるスチール机には、数世代前のデスクトップパソコンが、まるで家主のように鎮座していた。

 そして、スチール机の向こう側には、恰幅のいい西郷隆盛似の男子生徒が、スナック菓子をボリボリ食べながらゴシップ誌を眺めている。
「遅いぞ、ケビン」
 グラビアアイドルの水着写真から目を離さずに、彼は口を開いた。
「悪いな旭納(あさひな)ちょっと学園長に呼び付けられてさ」
 手近な椅子を引き寄せながら応える春都を、彼はジロッと睨み付けた。
「本部において、本名は御法度だぞ」
「ああ……えーっと、お前何て名前だっけ?」
「マイネーム、イズ、エルビス」
 そう言って、エルビスこと旭納蔵敷(あさひなくらしき)は、大きく胸を張った。

 冷めた目でその様子を見ていた春都は、机上のパソコンに向き直った。
「で、こいつに呼び出されたんだが……」
『コイツトハナニヨッ!』
 途端、機械の中から抗議の声があがった。
 オフになっていた画面に、制服を着た小学生位の金髪少女の画像が浮かび上がる。
 ふくれっ面をした彼女は、春都に言った。
『ワタシハ、なたりーデス』
「趣味に走っているなぁ……」
 素知らぬ顔をして雑誌を読んでいる彼女の名付け親を見ながら、春都はため息を吐いた。

 ナタリーは、人工知能(AI)である。
 彼女の思考レベルは相当高く、キチンとした自我を持ち、自ら考え、行動する事が出来る。
 そんなプログラムが、何故か世代遅れのパソコンの容量内に収まっている。

(不思議なものだな……)
 改めて、春都は思った。
 思えば、彼女との出会いも相当奇妙な出来事だったのだ。

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