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破滅とユートピア

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社会不適合者であったんですよ、彼は。
それで医者たちはこぞって彼の行動に興味を抱いたんです。彼のありとあらゆるところをかっぽじってね。そしたらね、なかったんですよ。彼には脳みそのシワがなかったんです。そりゃたまげたものですよ。あれだけ気違いだ気違いだと騒ぎ立ててた奴らがもしかしたら仏の生まれ代わりなんじゃないかだとか、今世紀最大の天才なんじゃないかだとか。こりゃもう仏様も神様もあったもんじゃありませんよ。医者たちはこれでもかってくらいに次から次へと自分の病院に彼を運んで研究してたんですね。こりゃ監禁ですよ。でもどうもね、彼は金閣寺とやらに異常に執着してるみたいなもんでね。羨望に似たような感情を持っていたんですよ。それを聞くなり、外野たちはこぞって金閣寺に行ったんです。世間がそれに忙しくしているうちに彼は普通になったんですよ。全くね、彼の人生をなんだと思ってるんですかね。結局時が経てば、彼も忘れさられるんですよ。何者かになれたとしてもね。それなのに、自分たちの興味だけで彼の人生をめちゃくちゃにして、呆れたものですよ。彼をダシにして、用が済んだら野に放すんですからね。残酷な話ですよ。そして今この瞬間にね、私もその一員になったわけですよ。彼からしたら私たちが異常者であり、当事者であったわけです。

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#短編小説
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#普通って何

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